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第19話 エピローグ

━━2020年3月。

悠理が栃木から大阪に向かう日。


宇都宮の駅に、綾乃、未央奈、みなみ達の三人の他に、紗耶とさくらも来ていた。


「これを…悠理ちゃんに貰って欲しくて…。」

と未央奈は言って、一枚の絵を差出した。


「これは…。」

受け取った悠理は、

「もしかして…遥香が…?」

と訊いた。


「うん、悠理ちゃんに貰って欲しくて。」

と、未央奈は言った。


━━公園のベンチで、悠理と遥香が楽しそうに話している絵だった。



「すごーい!」

絵を見た紗耶が言った。


「遥香さんて子、絵が上手だね!」

さくらも驚きを隠せなかった。


二人共、遥香とは面識がないが、悠理の親友という事は知っていた。


遥香の描いた絵は、とても上手くプロ級の出来だった。


「こんな大事な物、受け取れません。」

と、悠理は絵を返そうとした。


「悠理ちゃんに持ってて欲しいの…。

元々、悠理ちゃんにあげようとして描いてた絵だから…。

遥香、イラストレーターになりたかったみたい…。」

と、未央奈は言った。


流石、イラストレーターを目指していただけの事はあると、その場の誰もが納得した。


ベンチの傍にある柱も描かれていて、

【2001.8.8】と【YS & HI】という、

遥香の落書きも、しっかりと描かれていた。



「あれ?」

と、さくらは絵を後ろから見て、

「裏に何か書いてあるよ。」

と言った。


「あ、ほんとだ。」

紗耶も覗き込んで言った。


「ん?」

悠理は、絵の裏を見た。


そこには



サヨナラに強くなれ

この出会いに意味がある

悲しみの先に続く

僕たちの未来

始まりはいつだって

そう何かが終わること

もう一度君を抱きしめて

守りたかった

愛に代わるもの



と書かれていた。


━━これは遥香が好きだった曲の、歌詞の一部を抜粋したものだった。


何気ない言葉であるが、病気と闘っていた遥香の言葉となると、重みが違う…。


「遥香…。」

悠理の頬を涙が伝った。


「ありがとうございます。」

悠理は絵を受け取って、

「遥香…ありがとう…。

この絵…大切にするね…。」

と言った。


「遥香さんのお姉さん…。」

紗耶が声を掛けた。


「どうしたの?」

未央奈は、紗耶とさくらを見た。


「私達、遥香さんのお墓参り行ってもいいですか?」

と、さくらが訊いた。


「ええ、勿論。」

未央奈は少し間を置いて、

「でも、どうして?」

と訊いた。


「遥香さんは…。」

紗耶は悠理を見てから、

「私達の親友の心を救ってくれた、大切な人だから…。」

と言った。


「紗耶…さくら…。」

悠理の頬を再び涙が伝った。


紗耶とさくらの目にも涙が浮かぶ。


「遥香…。

果たせなくてごめんね…。」

悠理は少し間を置いて、

「8月8日の約束…。」

と言った。


遥香は短い人生の中で、多くの人を幸せにした…。



━━悠理は、その絵に向かって声を掛けたのだ。

その絵は、部屋の右側の壁の端っこに飾られていた。


その絵の近くの台には、聖来と撮ったプリクラの手帳が置いてある。


悲しくなった時に、ここに来れば遥香や聖来に会える気がしたからだ…。


鈴本悠理、新たな門出の日である…。




【終】




※~※

サヨナラの意味/乃木坂46様

作詞:秋元康様



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