悠理の頬を涙が伝った…。
聖来との別れから1年半程経ったが、哀しみは消えなかった。
人と関わる事が怖くなった。
遥香と出会い、また人と関わる事に前向きになれた。
しかし、【大阪】や【たこ焼き】など、聖来に関係するような言葉は、悠理をまた哀しみの海に引きずり込む。
「私は…幸せになっちゃ…いけない…気がする…。」
悠理は呟くように言った…。
【そんな事あらへん…】
【ウチは大丈夫やから、悠理は幸せになってな…】
━━どこからか、聖来の声がした気がした。
「!?」
悠理は辺りをキョロキョロ見渡した。
━━当然、聖来はいない。
そして悠理は、何かを思い出したように、チェストから手帳を取り出した。
アルバイト代で買った、四段のチェストだ。
プリクラが沢山貼ってある手帳だ。
━━悠理は手帳を開いた。
聖来と二人で撮ったプリクラが沢山貼ってあった。
二人共、楽しそうに笑っている。
「聖…来…。」
悠理は呟くように言うと、手帳を抱き締めて泣いた。
【プルルルル】
悠理の携帯電話が鳴った。
名前ではなく番号が出ているので、登録のない番号のようだ。
悠理は涙を拭った。
「も…もしもし…。」
悠理は、恐る恐る電話に出た。
『鈴本悠理さんの…携帯で間違いないですか?』
と、受話器の向こうから女性の声がした。
━━相手の女性は悠理の事を知っているようなので、間違い電話ではなさそうだ。
「はい。」
悠理は不安そうに答えた。
『悠理ちゃん…。』
女性は少し間を置いて、
『聖来の…藤吉聖来の母です。』
と言った。
「!?」
悠理は驚きを隠せなかった。
電話の相手は、藤吉聖来の母の
悠理は眞衣とは何度か会った事があった。
『突然、ごめんなさいね…。』
眞衣は謝ってきた。
「い、いえ…。」
悠理は答えた。
『実は、悠理ちゃんのお母様とお話する機会があって、悠理ちゃんが栃木に引越したって聞いたから…。』
と、眞衣は言った。
「そ、そうだったんですか…。」
悠理は答えた。
『ごめんなさいね。』
と、眞衣が謝ってきた。
「え!?」
悠理は、意味が分からない様子。
『聖来のせいで…。』
眞衣は少し間を置いて、
『聖来のせいで、悠理ちゃんに辛い思いをさせちゃったわね…。』
と言った。
「い、いえ...そんな…。」
と、悠理は言った。
『悠理ちゃんが元気がなくなって、不登校になってしまったって、お母様から聞いたのよ。』
眞衣が言った。
「そ、それは…。」
悠理は、返す言葉に戸惑っていた。
『いいのよ。』
察したように、眞衣が言う。
「……。」
悠理は黙って聞いていた。
『本当にごめんなさい。』
眞衣は謝った。
「い、いえ...。」
悠理は申し訳なさそうに答えた。
『あの子が迷惑を掛けたのに、こんな事を言うのもなんだけど…。』
眞衣は少し間を置いて、
『悠理ちゃんは幸せになってね…。』
と言った。
「あ…は、はい…。」
悠理は、頷くように答えた。
『あの子は…悠理ちゃんの笑顔が…大好きだったから…。』
眞衣は、涙声になりながら、
『だから悠理ちゃんには、あの子の分も幸せになって欲しいの…。』
と、続けた。
「聖…来…。」
悠理は、聖来の笑顔を思い出しながら呟いた。
また、自然と涙が溢れてきた。
『悠理ちゃんに、それを伝えたくて電話したの。』
と、眞衣が言った。
「あ、ありがとうございます…。」
と、悠理は頭を下げた。
電話を切ったあと、涙が止まらなかった。
でも、眞衣からの電話のお陰で、また少しだけ、悠理は前向きになれた…。
━━悠理はプリクラの手帳をチェストではなく、部屋の右側の壁の端っこにある小さな台の上に置いた。
悲しくなった時に、ここに来れば聖来に会える気がしたからだ…。
━━2018年12月24日。
悠理と遥香は、お台場に来ていた。
場所はパレットタウンにした。
敷地内にあるヴィーナスフォートというショッピングモールで色々と買い物をしたりした。
夕方、辺りが暗くなってから、二人は大観覧車に乗った。
━━ゴンドラからは、東京タワーやスカイツリー、レインボーブリッジなどが見える。
「すごーい!」
遥香は嬉しそうな声を上げて、
「綺麗だね!」
と、悠理を見た。
「うん。」
悠理は頷いてから、
「遥香…。」
と言った。
「何?」
遥香は悠理を見た。
「来年の誕生日、またここに来ない?」
と、悠理が訊いた。
「う、うん…。」
遥香は悠理を見て、
「来ようね…。」
と微笑した。
「約束だよ。」
と言って、悠理は小指を出した。
「うん。」
と言って、遥香も小指を出す。
二人は指切りをして、来年の8月8日に、またここに来る約束をした…。