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第11話 言葉が見付からない...

「悠理は何処の高校を受けるん?」

と、聖来は訊いた。


「乃木学園を受験する予定だよ。」

と、悠理は答えた。


「一緒やな。」

聖来は悠理を見て、

「ウチも乃木学園にしよう思ってん。」

と、笑った。


━━2016年の夏…。

悠理達は中学三年生になっていた。


進学などの最終的な進路を決める時期だ。


「じゃあ、一緒に乃木学園行こうね。」

と、悠理が言った。


「うん。」

聖来は頷いてから、

「ほな、一緒に勉強せぇへん?」

と訊いた。


「いいよ、一緒に勉強しよう。」

と、悠理は快諾した。


━━それから、二人は放課後や休みの日などに、図書館などで一緒に勉強をした。


乃木学園は偏差値69の高校で、猛勉強しても合格はなかなか難しい学校だった。


しかし、二人はお互いの苦手な所を教え合い、励まし合って、学力を高めていった。



━━年が明けた頃には、二人共、乃木学園が合格圏内に入る程にまでなっていた。


若干ではあるが、悠理よりも聖来の方が学力は上だった。



━━乃木学園の試験の前日…。


「あとは明日の試験をクリアするだけやな。」

と、聖来が言った。


「うん。」

悠理は頷いてから、

「今日は早めに終わろうか?」

と訊いた。


「そやな。」

と、聖来も同意した。



図書館の位置が、二人の家の間くらいにあるので、二人は図書館で別れて別々の道を歩いて帰った。


今日は朝から雨が降っていた。


この時間、雨足が強まってきていた。


聖来は公園を通って帰ろうと、公園の中に入った。


【くうーん】


━━何処からか、仔犬の鳴き声のようなものが聞こえてきた。


「なんやろ?」

聖来は、辺りをキョロキョロと見渡した。


「!?」

聖来は、仔犬が木の下で震えているのを見付けた。


━━捨て犬だろうか?

近くに濡れたダンボール箱が置いてある。


聖来は、その仔犬に歩み寄った。


「可哀想やな。」

聖来はしゃがんで、その仔犬に話し掛けるように呟いた。


【くうーん】

仔犬は震えながら小さく鳴いた。


「でも…。」

聖来は困った顔をして、

「ウチの家は賃貸マンションやから、飼ってあげられへんねん…。」

と、申し訳なさそうに言った。


「せやから…。」

聖来は仔犬を見つめて、

「これで、雨をしのいでな…。」

と言って、自分が差していた傘を仔犬が濡れないように立て掛けて差した。


「ウチ、明日大事な試験やねん…。」

聖来は仔犬を優しく撫でてから、

「元気でな…。」

と言って、立ち上がった。


【くうーん】


仔犬の鳴き声を背に、聖来は走り出した。

その声は【ありがとう】と言ってるようにも聴こえた…。



聖来が仔犬に傘をあげてから、更に雨足が強まった。


聖来は、びしょ濡れになりながら、自宅まで走って帰った。



━━試験当日。


前日、びしょ濡れになったせいで聖来は、風邪を引いてしまった。


聖来の両親は、休んだ方がいいと説得したが、どうしても乃木学園に入学したかった聖来は、高熱にうなされながら受験した…。


高熱のせいで、試験中の記憶が曖昧になるほど、意識が朦朧もうろうとしていた。



━━2017年3月。

乃木学園の合格発表日。


悠理は、一人で乃木学園に来ていた。


当初、聖来と来る予定だったが、午前中に用事が出来た為、別々に行く事にした。



「あるかな?」

悠理は、自分の番号を探した。


「!?」

悠理の目が止まる。


「あ、あった…。」

悠理は呟くように言った。


━━悠理は合格していたのだ。



「おめでとう…。」


後ろから声がした。


悠理は後ろを振り返った。


━━そこには、暗い表情の聖来が立っていた。


その表情で、悠理は察していた。


「ウチは、駄目やった…。」

聖来は首を横に振った。


「……。」

悠理は言葉を失った…。

聖来に掛ける言葉が見付からなかった…。


「悠理、ホンマにおめでとう!」

聖来は、精一杯の笑顔で言った。


「……。」

悠理は、【ありがとう】の言葉すら出てこないほど動揺していた。


そして、聖来は悠理に背を向けて、とぼとぼと歩き出した。


それでも悠理には、聖来に掛ける言葉が見付からなかった…。


一緒に苦しい受験勉強を乗り越えて来た親友に、掛ける言葉を探すなど、中学三年生の悠理には酷であった…。



━━その夜。


聖来は、自宅マンションの屋上から身を投げた…。

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