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第10話 たこ焼き

「別にいいけど、どこに行きたいの?」

悠理は訊いた。


『うーん…。』

遥香は少し考えてから、

『東京ディズニーランドとか!』

と、言った。


「あそこ、東京じゃなくて千葉…。」

と、悠理は苦笑した。


『あ、そうだった。』

と遥香も納得して、

『じゃ、じゃあ、東京ドイツ村は?』

と訊いた。


「それも千葉。」

と悠理は笑った。


『じゃ、じゃあ、東京湾フェリーは?』

と、遥香が訊いた。


━━取り敢えず、【東京】と付くものを言ったようだ。


「それ、神奈川と千葉を行き来してる船だよ。」

と、悠理は答えた。


『えっ、そうなの…。

千葉って東京なの?』

と、遥香は訳が分からなくなって来た。


「千葉は千葉だよ。

【東京】って付く施設も多いみたいだけど。」

と、悠理は言った。


『じゃあ、お台場は?』

と、遥香が訊いた。


「お台場は東京だけど…。

お台場の何処に行きたいの?」

と、悠理は聞き返した。


『たこ焼きミュージアム!』

と、遥香は元気よく答えた。


「!?」

悠理はハッとしてから、

「た…こ…や…き…。」

と、呟くように言った。


『あれ?』

遥香は何かに気付いたように、

『もしかして…たこ焼き…苦手…?』

と訊いた。


「ごめん…ちょっと…苦手で…。」

悠理は申し訳なさそうに言った。


『ううん、気にしないで。』

遥香は言ってから、

『お台場には、他にも遊ぶ所あるし。』

と、微笑した。


━━そして二人は、お台場の別な場所で遊ぶ約束をした。


電話を切ったあと、悠理は俯いた。


「ごめんね…遥香…。」

悠理は呟くように言って、

「ホントは…私も…たこ焼き…好きだったんだ…。」

と薄ら涙を浮かべた。



藤吉聖来ふじよし・せいらです。

よろしくお願いします。」

と言って、その少女は頭を下げた。


━━2015年の秋の出来事…。


ここは、悠理が通っている中学校…。


━━藤吉聖来、中学二年生。

後ろで一本に束ねた黒髪に、切れ長の目が特徴の美少女だ。


家庭の都合で、大阪から東京に転校して来た。


━━席は、悠理の隣になった。


「私、鈴本悠理、よろしくね。」

と、悠理は言った。


「よろしく。」

と、聖来が答えた。



この頃の悠理は、明るく誰とでも仲良くなれる少女だったので、すぐに聖来とも仲良くなった。



━━ある日の学校の帰り道。


「うち、たこ焼き、めっちゃ好きやねん。」

と、聖来は笑った。


「私も好き。

学校の近くに、美味しいたこ焼き屋あるよ。」

と、悠理が答えた。


「でも、それは“関東”のたこ焼きやろ?」

と、聖来は訊いた。


「関東?」

と、悠理は首を傾げた。


「あんな。」

聖来は少し間を置いて、

「関東のたこ焼きは、外側がカリッとして、中がトロトロの【カリトロ】なんやけど、関西のたこ焼きは、外側がフワッとしていて、中がトロトロの【フワトロ】やねん。」

と、説明した。


「へぇ、美味しそう。」

と、悠理は興味津々の様子。


「めっちゃ、美味しいで。」

と、聖来は自慢気に、

「関東のたこ焼きみたいに、壁にぶつけても壊れへんようなたこ焼きは、たこ焼きちゃうわ。」

と言った。


「何それ、面白い例えだね。」

と、悠理は笑った。


「親戚のおばちゃんが言っとった。」

と、聖来も笑った。


「フワトロのたこ焼きかぁ、食べて見たいなぁ。」

と、悠理は言った。


「ほんなら、ウチらが大学生くらいになったら、大阪に旅行せぇへん?」

と、聖来が言った。


「うん、行こう。」

悠理は聖来を見て、

「大阪案内してくれる?」

と訊いた。


「まかしとき。」

と、聖来は答えた。



そして二人は笑った…。

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