目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話 変化

「━━上村さん…。」


そう声を掛けられて、その少女━━上村紗耶うえむら・さやは振り返った。


━━上村紗耶、身長164cm。

肩よりも少し伸びた黒髪のストレートヘアの美少女だ。


声を掛けて来たのは━━悠理だった。


━━ここは日向高校の悠理のクラス。

紗耶は、悠理と同じクラスの女生徒だ。



━━2018年6月のある日の事。


「これ、落としました…。」

と言って、悠理はリップを差し出した。


どうやら紗耶が落としたらしい。


「ありがとう、鈴本さん。」

と言って、紗耶はリップを受け取った。


「うん…。」

悠理は頷いた。


━━落し物を拾ってあげる事くらい、学校生活では日常茶飯事だろう。


しかし、人と接する事に消極的になっていた悠理は、今まで声を掛けるのも出来なくなっていたのだ。


自分から同級生に声を掛けるなんて、乃木学園時代には、まず無理だっただろう。


悠理が遥香と知り合ってから、悠理の心の中に変化が訪れていた。


「急に声掛けられたからビックリしちゃった。」

と、紗耶は笑った。


「ご、ごめんなさい…。」

と、悠理は謝った。


「何で謝るの?

リップ拾ってくれたのに。」

と、紗耶は訊いた。


「ご、ごめんなさい…。」

悠理は、また謝ってしまった。


「声掛けてくれて嬉しかったよ。」

と、紗耶は言った。


「え?」

と、悠理は紗耶を見た。


「鈴本さんが、ウチらに話し掛けて来ないのは、鈴本さんが東京から来た子だから、ウチらみたいな田舎モン相手にしてくれてないと思ってたの…。」

と、紗耶は言った。


「わ、私…そんな事…思った事…ないです…。」

と、悠理は否定した。


「大丈夫、今はそんな風に思ってないから。

輪の中に入るのが、ちょっと苦手なだけなんでしょ?」

と、紗耶は訊いた。


「━━うん…。」

悠理は小さく頷いた。


「ウチらこそごめんね。

色々、話し掛ければ良かったね。」

と、紗耶は謝った。


「ううん、私の方がいけないの。」

と、悠理は言った。


「これから仲良くしようね。」

と、紗耶は言った。


「うん。」

悠理は頷いた。


「どうかしたの?」

と、誰かが声を掛けて来た。


「さくら、鈴本さんが私のリップ拾ってくれたの。」

と、紗耶が答えた。


声を掛けて来た少女の名前は━━尾関おぜきさくらで、悠理と紗耶と同じクラスの女生徒だ。


尾関さくら、身長160cm。

肩までの黒髪のストレートの似合う美少女だ。


「悠理ちゃんて、優しいんだね。」

さくらは言ってから、

「あ、ごめんね、馴れ馴れしく悠理ちゃんとか言っちゃった!!」

と謝った。


「ううん、悠理で…いいよ…。」

と、悠理は答えた。


遥香と出会って、悠理は少しずつだが前向きになってきていた。



━━2018年7月上旬。


ここは、悠理達の教室。


「では、今から期末テストを返します。」

と、英語教師━━守屋絵梨花もりや・えりかは言った。


守屋絵梨花、身長160cm、24歳。

肩までの少しウェーブのかかったナチュラルブラウンの髪に、キリッとした目が特徴の美女だ。

━━悠理達のクラスの担任でもある。


「今回、このクラスの英語の平均点は、54.2点でした。」

と、絵梨花は言った。


皆、英語があまり得意ではないようだ。


「━━鈴本悠理さん。」

と、絵梨花は言った。


「は、はい…。」

悠理は返事をした。


「私は、2年生の英語を4クラス見ているけど、鈴本さんだけが唯一100点でした。

おめでとう!!」

と、絵梨花は言った。


「すごーい!!」


「おめでとう!!」


と、クラスの皆が拍手をしてくれた。


「ど、どうも…。」

と、悠理は頭を下げた。



━━英語の授業の後。


悠理が席に座っていると、


「悠理。」

と、紗耶が声を掛けて来た。

━━さくらも一緒に来た。


「何?」

悠理は二人を見た。


━━転入して約一ヶ月…。

少しずつだが、悠理はクラスに馴染んでいた。


「ウチらに英語教えてくれないかな?」

と、今度はさくらが言った。


「…うん、私で良ければ…。」

と、悠理は答えた。


「ありがとう。」

紗耶が言った。


(人と触れ合うのっていいなぁ…)

悠理は思っていた…。



━━悠理と遥香は、あのあとも何度か会っていた。


公園やファーストフード店などで、他愛もない会話をするだけだったが、閉ざされていた悠理の心の扉は、少しずつ開き始めていた…。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?