星降る夜。
ワタシは独り、遮るものの一切無い丘の上で宙を見上げる。
夜空を埋め尽くさんばかりに散りばめられた、満天の星々。明るい星や暗い星、大きい星や小さい星、赤い星や青い星。様々な星がそれぞれ違った輝きを放つその様は、いくら観ていても飽きなくていい。
それにしても、今夜はみんな勢揃いのようだね。せっかくの機会だから、少しばかり独り言に付き合ってもらおうかな。
***
遠い昔。ワタシの足下に眠っているかもしれないペットのサルたちが、まだ息をしていた頃の話。夜空の星なんて数える程しか見えなかったんだよね。手なんか届く訳もないくらい離れた場所に住んでいるのに、まるで彼らがキミたちを追い出したかみたいに。
いつだったか、彼らが滅びの刻を迎えて幾星霜。いつのまにかキミたちは夜空に帰ってきた。振り返れば短い期間の話だったけど、場所を追われたキミたちは彼らの滅びをどう思っているのかな? ワタシ的には「ざまあみろ」と呪いの言葉の一つぐらい吐いていてくれると面白くていいんだけど。
いや、キミ達がいつでもずっとそこにあり続けていて、ただワタシから見えなくなっていただけだということぐらいは知っているよ。それにキミたちはワタシなんかよりもずっとずっと大きい存在で、ただただ気が遠くなるほどの距離が離れているから小さく見えるだけだってことも。
もしかしたら、ワタシなんかにこうして上から目線で物を言われること自体、キミたちからしたら癪に障ることかもしれないね。もし気を悪くしたのなら謝るよ。でもまあ、最期の刻くらい感傷に浸らせてくれたっていいじゃないか。
思えば色々なことがあったなあ。まだ生まれたてくらいの頃だったかな? とんでもない大きさの隕石がぶつかってきたのは。あの時ばかりはワタシも死を覚悟したものだったけど、なんとか生き延びることができてよかったよ。
でもその副産物として、いつのまにか可愛い妹分ができていたのは嬉しかったな。まあ恥ずかしがり屋過ぎて、全然こっちには来てくれないんだけどね。そんなところも可愛くていいんだけど。でも最期の刻くらいは一目逢いにきて欲しかったかな。
まあ恥ずかしがり屋の彼女のことはいったん置いておこうか。そのうち照れながらもやってくるかもしれないしね。
まだ年端もいかない頃にあんな隕石がきたものだから、その後も実は気が気でなかったんだけど……。蓋を開けてみれば結局、あれ以上の物は来なかったね。それとも、これから来るのかな。
ついこの間のことだったかな? あの時の物に比べれば全然可愛いもんなんだけど、そこそこの大きい隕石が届いたのは。あの時は衝撃のせいか風邪を引いちゃって大変だったよ。ワタシ自身はすぐに治ったんだけど、飼ってたトカゲたちが全滅しちゃったんだよね。この後飼うことになるサルたちと違って、飼い主に噛みついたりしないとても利口な子たちだったから悲しかったな。
その悲しみを埋めようと今度はサルを飼うことにしてみたんだけど……これがまあさっきも言った通り、かなりの問題児でね。始めのうちは小さくて可愛げがあるなんて思ってたんだけど、とんでもなかったね。人の土地に勝手に変な物は建てるわ、穴は空けるわ、ガスを撒き散らすわ。本当にやりたい放題やってくれたものだよ。今となってはそれもいい思い出かもしれないけれど、あの当時はペットのチョイスを間違えたと本気で後悔したものだね。ストレスで寿命が縮まるかと思ったよ。
そんなサルたちも最近滅んじゃったな。散々好き勝手やってくれたから、当時はむしろやっと解放されると喜んだものだけど、いざいなくなってしまうと少し寂しい気もするから不思議なもんだね。
サルたちのことを思い返すと正直愚痴しか出てこないのだけれど、反面、面白いこともいろいろしていて飽きない奴らではあったよ。例えばそうだな、キミたちに名前をつけてみたりなんかね。キミは確か「シリウス」、いや「セイリオス」だったかな? 「テンロウセイ」だったかもしれない。なんて、サルの分際で何様だって感じだよね。でももし気に入ってくれたなら、今度使ってみるといいよ。ワタシとしては「シリウス」がオススメかな。
実は今日、彼らの作ったものの一つを特別に借りてきたんだ。ま、借りると言っても返す相手はもういないんだけどね。って、そんなことは別にどうでもいいか。
この風化したヘンテコな筒なんだけれど、見かけによらず実はすごい代物でね。なんでも遠く離れたキミたちのことを観察するためのものらしいよ。不思議なものだよね。自分のペットながら、よくこんな面白いものを作ったなって感心しちゃったよ。名前はなんていったかな。確か「ボウエンキョウ」。いや「テレスコープ」? 「テレスコッピオ」だったかな? いろんな呼ばれ方をしていたみたいでややこしいんだよね。今ワタシが立っているあたりでは「ボウエンキョウ」呼びが主流だった気もするから、「ボウエンキョウ」でいいか。
流石に遠く離れ過ぎてると詳しくは見えないけどね。でも妹の顔くらいだったらよーく見えるんだよ。その荒れた肌までね。もしバレでもしたら「恥ずかしいからやめて」って怒られちゃいそうだね。
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話しかけても返事なんて返ってくるはずもない。本当にただの独り言。
でも、別に悲しくも虚しくもない。すっかり孤独にも慣れたもので、そんな感情はとっくのとうに忘れてしまった。
風化した筒を地面に置いて、ため息を一つ。そして改めて宙を見上げる。スシ詰めの星々の間を縫うように、一筋の流星が現れては消えた。
もう少しだけ、独り言に付き合ってもらおうかな。
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さっきの一筋の光のことを、サルたちは「ナガレ
こうして観てる分にはキレイでいいんだけど、たまーにとんでもない大きさのが来るからヒヤヒヤするんだ。「カキュウ」なんて呼ばれるサイズになると宙に一瞬閃光が走って、すごくびっくりしたものだよ。
その上は……改めて説明するまでもないかな? キミたちも一度や二度くらいくらったことがあるんじゃない? そう。ご存知隕・石・だよ。痛いなんてもんじゃないよね。だから今日みたいな日は宙がキレイで嬉しいんだけど、内心ではすごいビクビクしてるんだ。「どうか隕石が降ってきませんように」ってね。
もうそろそろかな? 終わりの刻って、いざ迎えてみると、気持ちの持っていきようがわからないものだね。この歳にもなると「最期に何をしよう」なんていろいろ考えてはみるんだけど、結局こうして独り言を呟くだけで終わっちゃったよ。少し孤独に毒され過ぎちゃったかな?
そういえばなんだけど「シュウマツトケイ」って知ってるかい? うちのサルたちが考え出した概念なんだけど……こうして最期の言葉にまで出てくるあたり、実はワタシってあのサルたちのことが結構気に入っていたのかもしれないね。それはさておき、滅びまでのカウントダウンを時計の針に例えるんだってさ。
え? 「トケイ」って何だよって? そっか。そこから説明しないとだよね。でも、ごめん。もうその時間はなさそうかな。
星の終わりっていったいどんな感じなんだろうね。キミたちみたいに自分でエネルギーを生み出して光ってる星の場合は、大爆発を起こすってのが一般的らしいけど、ワタシみたいな星でもそうなのかな?
少なくとも巨大隕石に木っ端微塵にされるって訳ではなさそうでよかったかな。あ、もし死角から来てそうだったら教えてほしいな。あれ本当に痛いんだから。もし来るなら心の準備をしておきたいからね。
***
なんて、今更になって痛みもなにもないか。
誰も聞く者のいない独り言。感じるのはただただ孤独だけ。
でもそれすらも、もう終わり。
ワタシは静かに瞳を閉じ、間近に迫るその刻を待つ。
時計の針が、全て重なるその刻を。