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20.最終章 - 5

 アルモニーア・シティ計画をアウローラ・エコーによって阻止されたハイペリオン・グループ。

 この巨大複合企業の権威は大きく揺らいだ。

 ハイペリオン・グループ上層部は、アルモニーア・シティ計画及びセイレーン・プロジェクトの失敗をエクリプス・サイバネティクス社に追及し始めた。

 追求と調査の結果、上層部に隠していた非合法活動の証拠が次々と発覚。

 これを重く見た上層部経営陣は直ちにエクリプス社をグループから切り離し、同時に解体されていった。

 その影響は、アストラ・エンターテインメント社にも及び、アストラ社は再編を余儀なくされた。


「……これが一連の顛末か」


 電子新聞を読んだハルトが言う。


「ええ。アストラ社が推し進めていたセイレーン・プロジェクトはないものとなって、芸術とエンターテイメントの本来の目的に戻ると」

「健全化が進んでいっていると言っていいのか」

「そうなりますね」


 セラフィナが言う。


「――そういえば、アリアとカイゼリン……といったか。彼女たちは?」

「シティ中心部の広場で、ノヴァ・シティの新たな始まりを祝うためのコンサートに出ているみたいですよ。行ってみますか?」

「そうしてみよう」


 □ ■ □ ■ □ ■


 シティ中心部の広場。

 そこには上層階層の住人も下層階層の住人も一緒になって、アリアとカイゼリンの歌声を聞いていた。

 彼女たちの歌声の響きにはかつてない解放感と希望が込められていた。


「この歌は、私たち全員のためのもの。新しい未来を、私たち自身の手で作りましょう」


 アリアの言葉に、広場に集まった市民たちは声を合わせて応える。


「……アリアとカイゼリンは大丈夫そうだな」

「そうですね。せっかくですし、ノヴァ・シティをもう少し見て回りましょうか」

「そうしよう」


 ハイペリオンの支配が弱まったからか、ノヴァ・シティの改革が徐々に進められている。

 市民たちが自主的に新たな未来を模索しようとしている姿がハルトたちの目に入ってきた。

 上層と下層の交流を促す新たな公共空間として、高層タワーの一角が利用されている。

 タワーのフロアガイドには、市民議会の会場が新たに設けられていた。


「市民議会……か」

「シティ市民自らがシティを統治していく……。ハイペリオンが統治するよりずっといいものになるといいですね」

「そうだな。――そうだ。ハイペリオンはどうなったんだろうか」


 ハルトとセラフィナは、ハイペリオン・グループがある場所へと歩みを進める。

 ハイペリオン・グループは健全化と再興を目指しているようだった。

 エクリプス・サイバネティクスの文字がグループ企業名から消され、ルミネラ・メディカル、シンセノヴァ・バイオテックなどが名前を連ねている。


「本社ビルって入れるんだろうか」

「行ってみましょう」


 ハイペリオン・グループ本社ビルに行くと、受付にいた女性がにこやかにハルトたちを出迎えた。


「ようこそ、ハイペリオン・グループへ。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「すいません。グループが今どうなっているのか知りたいのですが、よろしいでしょうか」

「わかりました。詳しいものをお呼びしますので少々お待ちください」


 しばらくして、ハイペリオン再興計画の責任者らしき人物が現れた。


「はじめまして。私はレギーナ・アンブロスといいます」

「二神ハルトといいます」


 ハルトはレギーナという妙齢の女性に、なにか黒い雰囲気を覚えた。


「今のグループの状況がどの様になっているか、ということでしたね。ではこちらへ」


 □ ■ □ ■ □ ■


 レギーナに応接間に案内されたハルトたち。


「今のハイペリオンは、エクリプス・サイバネティクスが残していた非合法活動の記録の抹消と、それに連なる企業への是正を行っています。

 できるだけ法問題もクリアされた企業活動を目標としています」

「なるほど。レギーナさんは上層と下層の格差についてどう思われますか?」

「これもできるだけなくしていこうと思っています。ただ、市民たちにこびりついた感覚というものは、なかなか払拭できないでしょうから、時間の問題と考えています」


 レギーナの言葉を信用していいものか悩んでいるハルト。


「そうでしたか。旧態依然としたハイペリオンではないのなら、少しだけ安心しました」

「そう言っていただけると幸いです」

「もし協力できることがあればご連絡ください」


 飯の種になればいいと思いながら、ハルトはレギーナに言う。


「ええ。その時は当グループの企業から連絡が入ると思いますわ」

「それでは失礼します」


 ハルトとセラフィナは、レギーナに頭を下げて、応接間を出ていった。

 彼らが出たことを確認したレギーナは、ビジネススマイルから険しい顔になる。


「あれが二神ハルトとセラフィナか……。――私だ」


 レギーナは応接間の通信端末を使って、どこかと連絡を入れた。


『どうしました、レギーナ代表代行』

「二神ハルトとセラフィナには気をつけろ。彼らを敵に回すと旧体制の二の舞いだ。できるだけ彼らには穏便に対処しろ。いいな?」

了解ヤー


 そこで通信は切れた。


「……まあ、いい。彼らさえ敵に回さなければ、ノヴァ・シティの直接的な統治はできずとも、間接的に統治は可能だろう。

 市民が自治会などを立ち上げようとも、そう簡単にうまくいくものか。議会にはすでに我々の息のかかった人物を送り込んでいるのだからな」


 ハイペリオンは、旧体制が見せた夢を忘れることはなかったらしい。

 一度はハイペリオンの支配から逃れたノヴァ・シティを待ち受けているのは、新たな希望の未来か、新たな絶望の始まりか。

 それでもシティは新しい明日への一歩を希望を持って踏み出そうとしていたのだった――。

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