ノヴァ・シティの中心にそびえる巨大なステージが光の洪水に包まれる。
セイレーン・プロジェクトの歌姫たちと無数のアリア・クローンが並んでいた。
その中央で圧倒的な存在感を放つのは、ハイペリオンの象徴として送り込まれた「オリジナルの影」――アリア・クローンの最上位モデルとして誕生したカイゼリンだ。
彼女たちの歌声が都市全域に響き渡るたび、ノヴァ・シティの市民たちは目の焦点を失い、操られたように動き始めていた。
「これ以上、自由を奪わせるわけにはいかない!」
アリアが護衛を伴ってステージに足を踏み入れると、歌姫とクローンたちが一斉に彼女を睨みつける。
「よく来たわね、オリジナル。あなたの存在は無駄だとこのカイゼリンが証明してあげるわ」
カイゼリンが決意を胸にしたアリアに言う。
その声はアリアと瓜二つだが、冷たく機械的な響きが混ざっていた。
「――貴様らがどれだけアタシに似ていようと、アタシの歌声は貴様らには真似できないだろうにッ!!」
アリアが強い怒りを滲ませながら答えた。
大きく息を吸い込んだアリアが歌い始めると、カイゼリンを中心とした歌姫たちの歌声が激しくぶつかり合い、音波の干渉で空間が歪み始めた。
周囲に閃光が走り、音波の波動が衝撃となって地面を揺らす。
その衝撃に破壊される歌姫が出てくるが、カイゼリンは怯むことはなかった。
〔さすがに私のクローンだけあって、手強いね……でもッ!〕
アリアはカイゼリンを見ながら思いを巡らせる。
彼女を護衛していた強化サイボーグ及びアンドロイドは、衝撃から一歩離れたところで見ていた。
気づけば、歌姫ガイノイドはアリアとカイゼリン率いるアリア・クローンが放つ音波の衝撃で全て壊滅していた。
〔チィ……全て機械で作られたお人形さんたちはスクラップか……〕
カイゼリンは、鉄くずと成り果てたガイノイドが視界に入り、そんなことを思う。
「カイゼリン」
「何事」
「クローンたちの統制が乱れ始めた。暴走を始めたクローンが出始めてるのが原因だ」
カイゼリンに付き従う上位モデルが、彼女に進言した。
「なに……。オリジナルにそんな力があったのか」
「いえ。オリジナルは戦いの中で成長するタイプなのだろう。我々との戦いで更にレベルアップした模様」
「グッ……」
焦りを見せ始めるカイゼリン。
「しかし、ここまで来てしまっては後退もできんだろう」
「確かに。このまま戻ればステリオスに破壊される可能性も。よしんば生きのびられたとしても……」
「奴らのおもちゃにされるというのか……。ならば、この戦いで潔く散るしかなかろう。そうは思わないか」
「御意。我らもこの戦いで機能を停止したほうがいいだろうと考えております」
「うむ。すまないな」
「お気になさらず。我らはカイゼリンと共に」
再び支配の歌を歌い始めるアリア・クローン。
アリアはそれに対抗するように希望の歌を再び歌い始める。
彼女の希望の歌は、市民の心に響き渡ったのか、彼らの目に再び光が戻り始めたのだ。
そして、アリアの希望の歌に導かれるようにステージに現れた市民たちは、アリアと同じ歌を次々に口ずさんでいく。
その歌声は、支配の歌声を押し返すように響き渡り、アリアの歌声とともに、音波の干渉を打ち破るように都市全域に広がっていった。
希望の歌に導かれるように市民たちがステージに集まっていき、同じように希望の歌を歌っていく。
やがて、ハイペリオンが展開した音波ネットワークが次第に崩壊を始めたのだ。
「……ここまでか」
敗北を確信したカイゼリンは歌うのをやめてしまった。
「カイゼリン」
「それ以上言うな。わかってる」
「御意……」
アリアがステージに立っていたカイゼリンと対面する。
「なんだオリジナル」
「さすがは私のクローンね。かなり手強かったわ」
「称賛しているのか?」
「当然。……それであなたたちはどうしたいの」
「……このままエクリプスあるいはアストラに戻ったところで、奴らのおもちゃにされるだろう。
だが、我々は行く宛もない。それでも十分なのだ ――!?」
アリアはカイゼリンの頬をひっぱたいた。
「バカ言ってんじゃないよ!!」
「オリジナル……?」
「あいつらのおもちゃにされるぐらいなら、アタシと来い、カイゼリン共!!」
激しい感情を見せるアリア。カイゼリンの手を強く握り、ステージから無理やり下ろした。
彼女に市民の視線が鋭く突き刺さる。
「オリジナル……。私はどうすればいい」
「この場でアタシと同じ歌を歌え」
「それでいいのか」
「それしかない」
アリアとカイゼリンは同じ希望の歌を歌い始めた。
ハイペリオンの音波ネットワークは、アリアとカイゼリンによって完全に崩壊した。
統制を失ったクローンたちは、もはや歌声ではない声を発し続け、その場で崩れ落ち始める。
カイゼリンに付き従う上位モデルたちも彼女と同じ歌を歌い始める。
これにより、アルモニーア・シティ計画は失敗に終わった。