ノヴァ・シティの下層階層にある廃工場。
ノアが持ち帰ったデータを投影するホログラムが、薄明かりの中で輝いていた。
画面には、複雑な回路図とともに『アルモニーア・シティ計画』の概要が表示されている。
「自由意志を奪う……。ハイペリオンはついにここまでやるつもりか」
エルスが低くつぶやくと、周囲のレジスタンスメンバーたちは静まり返った。
「この計画が完成すれば、ノヴァ・シティ全域に音波ネットワークが展開される。
市民たちは意識を保ちながらも、彼らの支配下で行動するように仕向けられる。完全な従属市民の出来上がり、ということだね……」
ノアが冷静に説明する。
「そんなの絶対に許さない……!!」
アリアは険しい表情を浮かべた。
「だからこそ、俺たちはアウローラ・エコーにいるじゃないか」と、ハルトが鋭い声で言い放つ。
「都市に点在するAIネットワーク中枢を無力化できれば、この計画を止められる可能性があるが……」
「時間がないし、戦力も足りない……。そうですよね、エルスさん」
ノアの言葉にエルスがうなづく。
「俺たちが知ったところで、上層階層の連中にどうやってこの計画の存在を知らしめる?」
「――旧世紀に流行り、今でもなおコミュニティとして存在するものがあるでしょう?」
オペレーターを務めるイゾルテが言う。
「SNSか……。上層階層のコミュニティに届くようにすればいい……。そういうことか」
「それなら、私たちにお任せあれ」
SNSに詳しいメンバーたちがエルスの方を向いた。
「わかった。頼んだぞ」
「
彼女たちはハイペリオンの「アルモニーア・シティ計画」をあえて風刺的なトーンで投稿し、市民の興味を引く内容に仕立て上げた。
【 🎶 新時代のノヴァ・シティでは、思考の自由はもう必要ありません!ハイペリオン様がすべてを決めてくれる素晴らしい生活へ、さああなたも! 🎶 #アルモニーア・シティ #自由バイバイ #ハイペリオン万歳 #ハイペリオンに栄光あれ】
投稿された内容は上層階層の富裕層たちも注目し、好奇心と不安から瞬く間に情報が拡散されていく。
引用された投稿には、ハイペリオンの支配を快く思わない一部の有力者もいたようだ。
数日後、レジスタンス本部に予測できなかった連絡が入る。
画面に映し出されたのは、上層階層に住む若い兄妹だった。
「突然の連絡であり不躾であるならご容赦願いたい。私はエイデン・ラヴェルという。横にいる女性は私の妹であり、リリアンという」
「お初にお目にかかりますわ、レジスタンスの方々。私たちはハイペリオン・グループのやり方にはずっと疑問をいだいていたのですわ。
彼らがノヴァ・シティの全市民を悪意を持ってコントロールしようとするのであれば、私たちの立場もいつ奪われるかわかりません」
「そこで私たちラヴェル兄妹は、レジスタンスのあなたたちを支援しようと思います。必要な資金や装備を提供します。
仲間を紹介することも可能ですが、ラヴェル兄妹であることは伏せておいていただけますでしょうか」
エルスが慎重に言葉を選びながら答えた。
「あなた方のような協力者が増えれば、我々の戦いはより強固なものとなる。感謝いたします」
ラヴェル兄妹のネットワークを通じて、ハイペリオンを快く思わない富裕層の支援を得たレジスタンスは、本格的な攻勢に出る準備を整え始めた。
作戦会議が終わると、ハルトは窓際に佇むアリアに声をかけた。
「この戦い、アリアの歌声が鍵になるかもしれない」
「ハルト。私はもう迷わない。この歌声が、シティの人たち全員を救えるのなら、全力を尽くすわ」
窓の向こうに広がるノヴァ・シティの夜景が、彼らの決意を照らしていた。