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17.最終章 - 2

 ノヴァ・シティの下層階層にある廃工場。

 ノアが持ち帰ったデータを投影するホログラムが、薄明かりの中で輝いていた。

 画面には、複雑な回路図とともに『アルモニーア・シティ計画』の概要が表示されている。


「自由意志を奪う……。ハイペリオンはついにここまでやるつもりか」


 エルスが低くつぶやくと、周囲のレジスタンスメンバーたちは静まり返った。


「この計画が完成すれば、ノヴァ・シティ全域に音波ネットワークが展開される。

 市民たちは意識を保ちながらも、彼らの支配下で行動するように仕向けられる。完全な従属市民の出来上がり、ということだね……」


 ノアが冷静に説明する。


「そんなの絶対に許さない……!!」


 アリアは険しい表情を浮かべた。


「だからこそ、俺たちはアウローラ・エコーにいるじゃないか」と、ハルトが鋭い声で言い放つ。

「都市に点在するAIネットワーク中枢を無力化できれば、この計画を止められる可能性があるが……」

「時間がないし、戦力も足りない……。そうですよね、エルスさん」


 ノアの言葉にエルスがうなづく。


「俺たちが知ったところで、上層階層の連中にどうやってこの計画の存在を知らしめる?」

「――旧世紀に流行り、今でもなおコミュニティとして存在するものがあるでしょう?」


 オペレーターを務めるイゾルテが言う。


「SNSか……。上層階層のコミュニティに届くようにすればいい……。そういうことか」

「それなら、私たちにお任せあれ」


 SNSに詳しいメンバーたちがエルスの方を向いた。


「わかった。頼んだぞ」

了解ヤー!」


 彼女たちはハイペリオンの「アルモニーア・シティ計画」をあえて風刺的なトーンで投稿し、市民の興味を引く内容に仕立て上げた。


【 🎶 新時代のノヴァ・シティでは、思考の自由はもう必要ありません!ハイペリオン様がすべてを決めてくれる素晴らしい生活へ、さああなたも! 🎶 #アルモニーア・シティ #自由バイバイ #ハイペリオン万歳 #ハイペリオンに栄光あれ】


 投稿された内容は上層階層の富裕層たちも注目し、好奇心と不安から瞬く間に情報が拡散されていく。

 引用された投稿には、ハイペリオンの支配を快く思わない一部の有力者もいたようだ。

 数日後、レジスタンス本部に予測できなかった連絡が入る。

 画面に映し出されたのは、上層階層に住む若い兄妹だった。


「突然の連絡であり不躾であるならご容赦願いたい。私はエイデン・ラヴェルという。横にいる女性は私の妹であり、リリアンという」

「お初にお目にかかりますわ、レジスタンスの方々。私たちはハイペリオン・グループのやり方にはずっと疑問をいだいていたのですわ。

 彼らがノヴァ・シティの全市民を悪意を持ってコントロールしようとするのであれば、私たちの立場もいつ奪われるかわかりません」

「そこで私たちラヴェル兄妹は、レジスタンスのあなたたちを支援しようと思います。必要な資金や装備を提供します。

 仲間を紹介することも可能ですが、ラヴェル兄妹であることは伏せておいていただけますでしょうか」


 エルスが慎重に言葉を選びながら答えた。


「あなた方のような協力者が増えれば、我々の戦いはより強固なものとなる。感謝いたします」


 ラヴェル兄妹のネットワークを通じて、ハイペリオンを快く思わない富裕層の支援を得たレジスタンスは、本格的な攻勢に出る準備を整え始めた。

 作戦会議が終わると、ハルトは窓際に佇むアリアに声をかけた。


「この戦い、アリアの歌声が鍵になるかもしれない」

「ハルト。私はもう迷わない。この歌声が、シティの人たち全員を救えるのなら、全力を尽くすわ」


 窓の向こうに広がるノヴァ・シティの夜景が、彼らの決意を照らしていた。

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