施設の奥深く、アリアは暗い空間に一人立っていた。
周囲に響くのは自身の呼吸音だけで、頭の中にはこれまで目にした記録や戦闘の記憶が渦巻いている。
ハルトやセラフィナの言葉が断片的に浮かび、心の中に疑問と希望の狭間を生み出していた。
その時、セラフィナが静かに部屋に入っていた。
彼女の動きはいつもと同じ冷静さを保っているが、その瞳にはどこか迷いが浮かんでいるように見えた。
「アリア、少しだけ時間をもらえますか?」
セラフィナの言葉に、アリアは振り返り、かすかにうなづく。
「何かあったんですか?」
「あなたの記憶データの一部について、再評価を行いました。その中に……おそらく……あなたが向き合うべき重要な要素を見つけました」
セラフィナは近くのモニターにその映像を映し出した。
それはアリアがまだハイペリオンにいた頃の記録だった。
彼女が無意識のうちに歌声を使い、周囲の兵士たちを無力化している様子が映し出される。
「前に見た記録ですよね、それのどこに……?」
「問題はここからです」
セラフィナが映し出している映像には続きがあった。
『……レーン……グラム……』
『……アリア……後継……』
ノイズ混じりだったが、研究員が何かを話しているようだった。
「以前に見たセイレーン・プロジェクトの話……?」
「おそらくは。アリアに搭載されたハイポタイズのテスト結果から、新たなプログラムを組み込む話のようです」
『セイレーン……かにも……だな』
『不安定……アリア……有効……』
どうやら、研究員は、アリアに組み込まれたハイポタイズは不安定だからアリアよりはセイレーン・プログラムのほうが有効だと言っているように聞こえる。
「もしかすると、セイレーン・プロジェクトは……」
「アリアの歌声やプログラムのフィードバックを受けて、よりよいシステムを作り上げようとしているのかもしれません」
アリアの拳が震え始める。
「私の声を使って、こんなものを作ったの? ……私は……私は……そんなことのために存在しているわけじゃないのに!」
怒りに震えるアリア。
「だからこそ、あなたは自分自身で選ぶべきです。ハイペリオンに利用されるのではなく、あなたの意志で歌う理由を」
セラフィナの言葉に、アリアははっと目を見開いた。
「私の歌はただの道具じゃない……。誰かを助けたい。誰かのために、歌う。それが私の選ぶ道……。今、はっきりした」
「その言葉を聞いて安心しました」
アリアの決意に、セラフィナは微笑んだ。
だが、その場の緊張を破るように、施設の通信機が急に鳴り響いた。ノアからの報告が入る。
「ハイペリオンが動き出した。奴ら、セイレーン・プロジェクトで生まれた歌姫をノヴァ・シティ中心部でデモンストレーションをやるらしい」
続いてハルトが部屋に入っていた。
「アリア、セラフィナ。準備はいいか」
「もちろんです」
「はい。ハルトさん、セラフィナさん。私は行きます。私が選んだ道を証明するために」
アリアはハルトを迷いのない目で見つめ、深く息を吸いながら答えた。