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10.第二幕 - 6

 ハイペリオンに襲撃されたことで、上層階層にいることを諦めたハルトは、ノアを通じてアウローラ・エコーに参加することを決めた。

 必要な機材などをレジスタンスメンバーに手伝ってもらいながら、下層階層へと向かう。

 ハルトたちの新たな拠点となる施設は、廃工場を改造したものだった。

 レジスタンスのメンバーが慌ただしく動き回りながら、次なる作戦の準備に追われていた。

 ハルトは使い慣れた作業台に腰掛け、小型端末に向かって忙しくキーボードを叩いている。

 その隣ではセラフィナが、運び出した機材の点検を黙々と進めていた。

 アリアはその光景から少し距離を置き、ひとり静かに施設の隅に座っていた。

 彼女の目の前には、小型のモニターが置かれている。そこには、歌声によって救われたり壊されたりしている様子が映し出された映像だった。


「歌声一つで救うことも壊すこともできる……」


 つぶやいたアリアの声にハルトが反応した。


「アリアにしかできないことがある。自分の持つ力に恐怖することもわかる。でも、それを破壊に使うか救いに使うかはお前に委ねられている」

「もう誰も傷つけたくないの……。それなら使わないほうがいいんじゃないかって」


 ハルトの言葉にアリアが返す。


「それはそうだろうな」と、ハルトは肩をすくめた。

「だが、アリアがその力を使わなければ、誰かを救うことはできない。それもまた、事実だ」


 アリアはハルトの言葉を反芻しながら、静かに立ち上がった。そして施設の中央に向かい、目を閉じた。


「救い……。癒やす歌なら、私にも歌えるかもしれない」


 彼女が小さく歌い始めると、慌ただしく急かされる空気が一変した。

 その声はこれまでのような圧倒的な力ではなく、どこか温かみを持った響きだった。

 近くにいたレジスタンスメンバーが振り向き、少し驚いた表情で耳を傾ける。


「歌……か」

「そういえば、旧世紀のアニメで、歌が世界を救ったものがあったよな」

「あった。敵異星人が忘れてしまった愛の歌を、人類側が歌って、この文化を失うわけにはいかないと心ある異星人が人類とともに戦った話があった」

「――アリアって言ったよな、嬢ちゃん」


 レジスタンスメンバーがアリアに声を掛ける。


「あ、はい」

「君の歌は、人を救えるかもしれない。俺たちはそう思っている」

「歌を武器ではなく希望に変えることができるかもしれない。……そうかもしれないな」


 にこやかに言葉を紡ぐメンバー。


「――アウローラ・エコーの同志たちよ。次の行動計画を立てるための会議に参加してほしい」

了解ヤー!」


 リーダーの招集にレジスタンスメンバーが駆け寄る。

 ハルトたちもその招集に参加するために駆け寄った。

 会議に移動しながら、アリアは改めて自分の中に生まれた小さな決意を握りしめた。

 この力を、ただの破壊の道具にしない。そのために何をすべきかを、自分自身で探し出すと心に誓った。

 その先に待つ未来がどんなものかはまだわからない。だが、アリアはようやく一歩を踏み出した。

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