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7.第二幕 - 3

 セイレーン・プロジェクトを知ったハルトたち。

 他のレジスタンスが手に入れてきたという映像を彼らに見せた。

 映し出されているのは、ハイペリオンの施設内で収集されたという映像だ。

 兵士たちが整然と並ぶ中、一人の少女が無機質なステージの上に立ち、歌を歌っている。

 その歌声は美しい旋律を紡ぎ出す一方で、同時に耳を塞ぎたくなるほどの力が込められていた。

 周囲の人間が苦痛に顔を歪め、崩れ落ちる。


「これがセイレーン・プロジェクトの……」

「アリア。君と同じような目的で作られた存在だろう。

 奴らは君の歌声の力を兵器化するつもりだった。そして、その計画はまだ続いている」


 アリアは言葉を失った。彼女がどれほどこの力を恐れていたかを、彼らは知っていた。

 それでもなお、目の前でこれを突きつけられた現実に、心が締め付けられるようだった。


「アリア。これを放置すれば、奴らはまた同じことを繰り返す。でも、与えられてしまった力を正しく使えば、彼らを止めることもできるはずだ」

「でも、私は自分の力をコントロールする方法なんて知らない……」


 アリアはハルトを見上げた。その瞳には混乱と恐怖、そしてわずかな覚悟が混在していた。


「そうだな。……俺にいい考えがある。ノア、エルスさん、一度俺たちは工房に戻ります」

「あぁ、わかった。道中気を付けてな」


 □ ■ □ ■ □ ■


 数日後、ハルトは工房の隅に特殊な装置を完成させていた。


「これは、音波を感知し、出力を視覚化する装置だ。

 お前の歌声が持つエネルギーを解析し、制御する方法を見つけるために作った。

 お前自身が歌声を理解すれば、無闇に力を放つこともなくなるはずだ」


 そこには大きな円筒状の装置が鎮座していた。

 外部はシルバーの金属で覆われ、中央には歌声を感知するための細かいセンサーがいくつも取り付けられている。


「これが?」

「そうだ。……アリア、やってみてくれるか?」

「でもまた同じように……」


 セラフィナがアリアの肩に手を置き、優しく言った。


「怖がらないで。あなたには、私たちがついている」


 アリアはしばらく静かに考え込んだ後、ゆっくりと装置の中へ歩みを進めた。

 やってみる、という声は小さかったが、明確な意志が感じられた。

 装置が起動し、アリアの歌声が響き始めた。

 初めは不安定で、音の揺らぎがセンサーを振り切る。

 だが、徐々に彼女の声は落ち着きを取り戻し、まるで彼女自身が音を形作るように制御が加わり始めた。


〔大丈夫だ、アリア。お前ならできる。俺たちはそれを信じている〕


 ハルトはアリアの様子をしっかりと見つめていた。

 その瞬間、アリアの声が空間を満たし、優しい音色が響き渡った。

 装置のセンサーは穏やかな波形を描き、力の暴発は完全に抑え込まれていた。

 アリアは目を開け、驚きと達成感の混じった表情を浮かべた。


「私……できた……?」


 その言葉にハルトが微笑んだ。


「ああ、お前の力だ。もう怖がる必要はない」


 その一言に、アリアの心の中に灯り始めた希望の光が少しだけ強くなった気がした。

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