工房の奥にあるスキャニングルームの診断台に、主電源が切られているであろう少女型アンドロイドを寝かせたハルト。
「セラフィナ、いつものように頼む」
「
物理モニターと無数のデジタルモニターがハルトとセラフィナの前に現れる。
背中側のケーブル挿入口から物理モニターを接続したハルト。
「さて、スキャニングを開始するぞ」
スキャニングプログラムが起動し、いくつかのデータがハルトたちの目の前に現れた。
「特に異常は見当たらないな……。ふむ……」
途中でスキャニングプログラムが警告ダイアログを出して一時停止した。
「なんだ? ……【未知のプログラムを検知しました。詳しくはログを見てください】だあ?」
「――ハルト。ログってこれじゃないかしら」
セラフィナが展開されたデジタルモニターをハルトに『投げて渡す』。
「……【下層階層専用監視プログラムとの連携】?
【キハール、インレ、スリアラーとのアクセス】?
【バックソーン試作型】? なんだこれ?」
そのコメントの後には、下層階層専用の監視プログラムとのアクセスやログ送信のプログラムコードが何行と連なって書かれている。
「もしかしてこの子は、下層階層に送り込んで反抗組織や抵抗する意志を持った市民を素早く発見するために……」
「ハイペリオンの奴らめ……」
「……それに、こんなプログラムも見つけたわ」
別のデジタルモニターを『投げる』セラフィナ。
「……! こっちの方がもっとやばいやつだ」
「そうでしょう? 【ハイポタイズ】……。『hypnotize』……。つまり洗脳ね」
「――ッ! じゃあ、この娘は下層階層市民をなんらかの方法で意のままに操作しようっていうのを考えられて制作されたのか!」
ハルトの声音に怒りが見える。
「こいつも上層階層の人間どもの犠牲者か! ノヴァ・シティはおかしいと思っていたが、ここまでおかしいとは!
セラフィナ! 他にもなにかないか、徹底的に探すぞ!」
「もちろんよ、ハルト」
彼女のスキャンを再開して、ハルトたちはこの少女が「アリア」と呼ばれ、下層階層出身であること。
その歌声は下層階層の市民の心を癒やし、生きる活力になっていたこと。
それに目をつけた上層階層のアイドル事務所が彼女を上層へ連れていき、アイドルとして活躍させていたこと。
歌声に利用価値を見出したハイペリオン・グループ、そして傘下の企業『エクリプス・サイバネティクス』が彼女をアンドロイドとして改造したこと。
スキャンが続くにつれて、怒りをあらわにしていくハルト。
「スキャン終わり! セラフィナ!」
「エクリプスが仕込んだと思われるプログラムをすべてコメントアウトで無効化してやる、ね?」
「そのとおりだ。ありがとう」
セラフィナはアリアのプログラム内に『ハッキング』を行い、プログラムのコメントアウトを始めたが。
「あ………グ………」
「どうした、セラフィナ!?」
「ハルト……外部……カラ……ノ……侵入……ブロック……はバまれ……」
侵食されているのか、セラフィナの言語がおかしくなっていく。
「クソッ! こうなりゃ、俺だって!!」
危険を承知で、ハルトもアリアのプログラム内に『ハッキング』を行い、バックソーン及びハイポタイズプログラムのコメントアウトを試みた。
格闘すること数時間。
「ごめん、ハルト」
「気にしなくていいよ、セラフィナ。君のお陰でバックソーンやハイポタイズなるプログラムの起動を阻止できたんだ。
さて……このプログラムコードをどうするか、だがな……」
バックソーンとハイポタイズのコメントアウトしているプログラムコードをコピーしていた。
「とりあえず、クラウドストレージは避けましょ。ハイペリオンがネットワークを監視している可能性も否定できない」
「そうだな。よし……」
工房内のバックアップドライブとスキャニングプログラムを搭載しているパソコンに、アリアに仕込まれたプログラムコードを保存した。
ハルトとセラフィナは気づかなかった。アリアの機械的な瞳が一瞬光り輝いたことを。