辺りを照らすネオンの光がくすんだ金属壁に反射し、工房内を蒼白く染めていた。
工房内には、様々な工具やデスクトップパソコン、ノートパソコン、量子回線が置いてあり、様々な機械部品も置かれている。
「ったく。こんな時代にまだこんな
感心するしかないな。その粘り強さにはな」
工具を握る彼の指先は煤で黒く汚れていたが、その動きに無駄はなかった。
不意に、作業台の隅でセラフィナの声が響く。
「でも、こんな骨董品でも動けば誰かが助かるんでしょ?」
「そりゃそうだ。俺の手で動くなら、その価値はある」
ハルトは苦笑いしながら言葉を返すと、再びドローンの中に視線を戻した。
修理を終えたドローンのスイッチを入れて、工房内でドローンを浮かせてみる。
ブーンという音を立てながら、垂直に飛び上がり、周囲を旋回するように動き出した。
「よし、終わり! セラフィナ、依頼主に修理が終わったと伝えてくれるか?」
「
量子回線で依頼主に連絡をいれるセラフィナ。
「さてっと……。他の依頼は……残ってないよな」
「そうね。これで最後よ」
「っはー……」
大きなため息をつくハルト。
「ハイペリオンの傘下に入らないだけでこんなに待遇って悪くなるんかね?」
ハルトの工房はノヴァ・シティの下層階層にほど近い上層階層の場所に構えている。
二神家は祖先のケンイチが良心的なアンドロイド技師として有名だったため、ハルトもその例に及ばず、アンドロイド技師としてハイペリオン・グループ傘下の企業に
だが、二神家の家訓と彼自身の信念が理由でハイペリオン・グループ傘下企業から追い出されてしまう。
なんとか上層階層に踏みとどまることができたが、扱いは下層階層の人間とあまり変わらない。
「その方が気楽なんじゃないかしら。自分の意志を曲げてまで
「それはそうだが。あまり迂闊なことを言うと、ハイペリオンから粛清されるからな」
「おっと。そうだったわね」
ハイペリオン・グループ。
ただのドーム都市の一つだったノヴァ・シティを発展させた巨大複合企業であり絶対的な支配者である。
人工知能による監視システムが常に目を光らせているのだ。
上層階層はそうでもないが、下層階層は地下に追いやられたことで憤りを感じる住民が多く、抵抗活動が盛んであることを、ハルトはニュースで知っていた。
「とはいえ、別に俺はセラフィナが組んでくれたプログラムのお陰で、スリアラーの目を逃れられている部分もあるがな」
ハイペリオン・グループの監視システム『スリアラー』。
ノヴァ・シティ全体を監視する人工知能であるが、ハルトの工房はスリアラーからすれば不明な場所という認識を持っているため、気づかれることはあまりない。
「――あら?」
「どうした、セラフィナ?」
「久しぶりにアンドロイドの修理依頼が来たわ」
セラフィナが送られてきたメールをハルトに『投げて渡した』。
「……なんともまあ、きな臭いところからだぞ」
「……あぁ、たしかにそうね」
ハルトとセラフィナが目にした宛先。
それはハイペリオン・グループ傘下の企業『シンセノヴァ・バイオテック』からであり、依頼内容は女性型アンドロイドの感情プログラムに異常をきたしたので修復してほしいというものだった。
「んー……修復依頼の相場、わかってんのか、こいつら?」
「どういうこと?」
「報酬額が頭おかしいんだよ。なんだよ、このクレジット量。おかしいだろ」
セラフィナがメールに書かれた報酬額を見つめる。
「ええ。そうね。ただの修復にこんなにクレジットをくれるのかしら」
「それに依頼内容もな。なんだかなって思うんだよ。読み上げるぞ」
『女性型アンドロイドの感情プログラムに異常を検知しました。
ですが、こちらでは修復することができないと判断したため、上に判断を仰ぐと二神ハルト様に依頼せよとの通達で送らせていただきました。
物品はこのメールの発信後、専用ドローンで数時間後にお届けする予定です。何卒よろしくお願いします』
「……ってな。ハイペリオン傘下の企業がアンドロイド修理できんから民間に依頼するっておかしくねぇか?」
「そうよね。なにかおかしいわね」
ジリリ、とアラーム音が工房内に鳴り響く。
「――あれか?」
アラーム音に気づき、工房の外に出たハルトが見ると、ドローンがなにかの荷物をぶら下げていた。
「こいつか。ありがとよ」
荷物を受け取ったことを確認したドローンは、ブーンと何処かへ去っていく。
「セラフィナ! 手伝ってくれるか!」
「
セラフィナとともに荷物を運び出すハルト。
工房内でその包みを開けると、確かに女性型アンドロイドだったが……。
「おい! これ、まだ子供じゃねえか!!」
「ハルト、どうしたの、大声を上げて……」
ハルトの怒りの声が気になり、包みの中を見たセラフィナの顔が険しくなっていく。
「なんてこと……。こんな少女をアンドロイドにするなんて……」
「通りでおかしいと思った! クソッタレ
彼の怒号を聞いたセラフィナが、ハルトの口座を確認した。
「……支払われてる」
セラフィナの青ざめたような言葉に、舌打ちを打つハルト。
「まあいい。報酬があるなら修復してやるよ。――セラフィナ、行くぞ」
「