昔は何もなかったのに、すっかり開発も進んで賑わうようになってきた駅前。都心のオフィスビル街や有名歓楽街ほどとは言わないが、多くの人でごった返すようになってきたその様は、見ているだけでも嫌気が差す。
線路沿いの脇道を渡る横断歩道では、苛ついた黒のベンツがこれでもかとクラクションを鳴らしている。混むとわかりきっているこんな道を通ろうとする方が悪い。
これだから車は・・・・・・特にベンツは嫌いだ。「おーい、ここにトイレがあるよ」上空のカラスたちへとそう声をかけたくなる程に。
そんないつも通りの街の喧騒から逃げるように外れて徒歩五分。そこに現われるのは、昔ながらの佇まいを未だに残す、街の喧騒から隔絶された静寂の空間。
私はこの場所が大好きだ。別に五月蠅いのが嫌いだからではない。もちろんそれもあるけれど・・・・・・。
この場所でだけ。私は君に逢えるから。
春風が心地よくなってきたこの頃。雲一つ無い青空には、二羽のツバメが飛んでいる。
「私、ずっと待ってるんだけどなぁ・・・・・・」
ぼそりと呟くけど返事はない。あくまで私の独り言。
もう何年目の今日にあたるだろう。三回目のデートのあの日。待ち合わせの時間をとうに過ぎても、駅の改札前に君の姿は現われなかった。
携帯電話を何度も開くけど、いっこうに君からの連絡は来ない。いても立ってもいられず、あても無く駅前をさまよい始めると、たまたま目にしたのは脇道にごった返す野次馬騒ぎ。香水のきつい見知らぬ女性が教えてくれた話によると、なんでも男子高校生が黒のベンツにひき逃げされたのだとか。
その後のことは、もう頭が真っ白でよく覚えていない。
「好きな花でも聞いておけばよかったね」
白い菊の花の香りを嗅ぎながら、そう呟く。
あの日と同じ黒いビスチェのミニワンピース。いつの間にやらアラサーなんて呼ばれるようになった私にとっては、もう心身ともにキツくて仕方ない。それでも、キミに逢うためにはこの服でなければいけないような気がする。
この服ももうじきに着られなくなるだろう。今だってすでに生地の一部分が悲鳴を上げている。そうなるころには、キミのことなんて忘れられるだろうか。いやきっと無理だよね。
暖かい春風も、今の私には少しだけ肌寒い。
「じゃあね。また来るよ」
キミの名前が刻まれた石をそっと撫でる。
あの日の私たちはきっと友達以上だったはず。けれど恋人になることはもう適わない。永遠に。
私たちは永遠の・・・・・・「友達以上恋人未満」