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あの日の春風に吹かれて
あの日の春風に吹かれて
ぼんげ
恋愛現代恋愛
2025年02月24日
公開日
1,045字
完結済
春。街から外れた静かな場所へ。私は君へと逢いに行く。

私たちはきっと、あの日と同じまま・・・・・・

※カクヨムのショートストーリーコンテストに応募した同名作品と同内容です。

あの日の春風に吹かれて

 昔は何もなかったのに、すっかり開発も進んで賑わうようになってきた駅前。都心のオフィスビル街や有名歓楽街ほどとは言わないが、多くの人でごった返すようになってきたその様は、見ているだけでも嫌気が差す。


 線路沿いの脇道を渡る横断歩道では、苛ついた黒のベンツがこれでもかとクラクションを鳴らしている。混むとわかりきっているこんな道を通ろうとする方が悪い。


 これだから車は・・・・・・特にベンツは嫌いだ。「おーい、ここにトイレがあるよ」上空のカラスたちへとそう声をかけたくなる程に。


 そんないつも通りの街の喧騒から逃げるように外れて徒歩五分。そこに現われるのは、昔ながらの佇まいを未だに残す、街の喧騒から隔絶された静寂の空間。


 私はこの場所が大好きだ。別に五月蠅いのが嫌いだからではない。もちろんそれもあるけれど・・・・・・。


 この場所でだけ。私は君に逢えるから。


 春風が心地よくなってきたこの頃。雲一つ無い青空には、二羽のツバメが飛んでいる。


 つがいだろうか? そんなことを思うと、ふと切なくなる。


「私、ずっと待ってるんだけどなぁ・・・・・・」


 ぼそりと呟くけど返事はない。あくまで私の独り言。


 もう何年目の今日にあたるだろう。三回目のデートのあの日。待ち合わせの時間をとうに過ぎても、駅の改札前に君の姿は現われなかった。


 携帯電話を何度も開くけど、いっこうに君からの連絡は来ない。いても立ってもいられず、あても無く駅前をさまよい始めると、たまたま目にしたのは脇道にごった返す野次馬騒ぎ。香水のきつい見知らぬ女性が教えてくれた話によると、なんでも男子高校生が黒のベンツにひき逃げされたのだとか。


 その後のことは、もう頭が真っ白でよく覚えていない。


「好きな花でも聞いておけばよかったね」


 白い菊の花の香りを嗅ぎながら、そう呟く。


 あの日と同じ黒いビスチェのミニワンピース。いつの間にやらアラサーなんて呼ばれるようになった私にとっては、もう心身ともにキツくて仕方ない。それでも、キミに逢うためにはこの服でなければいけないような気がする。


 この服ももうじきに着られなくなるだろう。今だってすでに生地の一部分が悲鳴を上げている。そうなるころには、キミのことなんて忘れられるだろうか。いやきっと無理だよね。


 暖かい春風も、今の私には少しだけ肌寒い。


「じゃあね。また来るよ」


 キミの名前が刻まれた石をそっと撫でる。


 あの日の私たちはきっと友達以上だったはず。けれど恋人になることはもう適わない。永遠に。


 私たちは永遠の・・・・・・「友達以上恋人未満」

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