犬の動画を巡っていた。
ボール遊びに興じるわんわん、集団でひとりの人間を襲うわんわんたち、動物園でオオカミと出会うわんわん、他の動物たちと仲良くあそぶわんわん――いろんなわんわんに心現れてるさなか、その動画が目の前に現れた。
YouTubeは、動画視聴後テキトーな動画にジャンプする。その法則はよくわからないが、これまでずっと犬の動画だったのに、なぜか
しやがったのだ。
「あ?」
思わずこんなつぶやきが漏れたね。なんだ、わたしは癒やされるためにYouTubeを視聴してたんだと。YouTubeさんはその人が好む動画を"おすすめ"として用意してくれる。個人的には『このジャンルはどうですか?』的な感じで見たことのない動画を紹介してくれても良いのでは? と思う派ではあるが、これまでの流れとあまりにも違ってる。
種類的な意味で、ベクトル的な意味で。
もういちど言うぞ? わたしは癒やされに来てるのだ。決して「まぁーた撮り鉄がギャーギャー騒いでるよバカだなぁ」なんて感慨にふけるため訪れたワケじゃない。こういう「ほら
とはいえ、これもひとつの縁と前向きに受け止めようと思った。そして、なぜ撮り鉄と呼ばれる彼らはこのような行動――端的に書けば狂ったような叫びをあげ、奇人の如くカメラを構え、他者の迷惑をかえりみず他人の領地を荒らし、勝手に草刈りをし、他人の子どもを取り上げ土下座を強要し、ルールを守って撮影してる撮り鉄が「すげえ!」と逆に称賛されるのか。
えーっと、なにこいつら犯罪者なの? ――ま、まあいい。とりあえず考えてみよう。
:撮り鉄ってなによ?:
Wikipediaには『鉄道撮影』という項目があり、その趣味を嗜む人々を『撮り鉄』と呼ぶと記述されている。
なぜか知らんが、鉄道を走る電車は人の、とりわけ男性のこころをくすぐる何かがあるらしい。わたし自身男性だが、まあ、その心理はわからなくもない。なんと書けばいいかわからないが、開けた田畑のなか悠然と走る姿はある種のロマンを感じる。
鉄道に関する趣味は乗り鉄、車両知識、歴史、模型など多岐にわたるようだ。そのなかで撮り鉄は電車が颯爽と走る様を撮影し、その写真を眺めて楽しむもの。なかにはコンテストなどもあり、それなりに業界を賑わせている。鉄道会社や写真開発業者なども主催している。
言うまでもなく、彼らは電車を撮影するわけだが……実はその撮り方には一定のルールがある。
列車の編成を綺麗に撮影した"理想"とされる写真のことだ。その項目は非常にこまかく、たとえばこのような点がチェックされ、クリアしたものが高く評価される。
・電車に影がない
・電車の全面にピントが合う
・窓がすべて閉じ、乗客が見えない
・電柱などの余計な人工物がない
・地面に雑草や柵などがない
このほか事細かく設定されるのだ。個人的にワイパーが左右対称などどうでもいいと思ったが、撮影する立場からすれば極限までこだわりたいのだろう。
また、駅ホーム内で撮影する『形式写真』、風景の一部として鉄道を添える『風景写真』など存外種類がある。細かいことは以下を参照していただければ幸いだ。
富士フィルム
ttps://fujifilm.jp/support/information/train/index.html
実は、わたしは縁あって撮り鉄が集まるスポットの近くに住んでいる。その場所ではまだ「撮り鉄が迷惑行為をした!」的な話は聞かない。
彼らは三脚とカメラを用い"その瞬間"を撮影する。わたしが見た限りではいかにも高そうなカメラだ。詳しくないが、一眼レフと呼ばれるものやデジタルカメラ、レンズが伸び縮みするものなど見ていて飽きない。それと、なるべく高い位置で撮影したいのか脚立まで用意する猛者もいた。
近くに撮影用の高台があるのだが、撮り鉄たちにとって譲れないこだわりがあるのだろう。
:撮り鉄の迷惑行為:
前段落のとおり一定の基準があり、その瞬間を捉えるため撮り鉄たちはあんなに必死になるのだろう。滅多にない機会であるが故、多少熱くなる気持ちもわかる。スポーツ観戦で熱中するファンに似た心境なのかもしれない。
スポーツ観戦者もたまに熱くなり球場に飛び出したり、服を脱ぎだしたり、選手や他ファンに罵詈雑言を浴びせることもあるだろう。ということは撮り鉄もその範疇なのか? ――それにしても、やたら比率が多くないか?
迷惑な撮り鉄は果たして"一部の~"という枕詞がつくのか? という疑問ないし好奇心が湧いた。
『鉄道トレンド総研』という組織がある。文字通り、鉄道に関する調査研究を行う機関だ。その調査によると「迷惑な撮り鉄を見たことがある?」というアンケートに対し、なんと"29.8%"が「はい」と答えたそうだ。
スポーツ観戦中の迷惑なファンはどの程度いるのだろう? いや、この場合撮り鉄は『公衆の面前』という環境であり、スポーツ観戦はある程度閉鎖的だから比較に耐えないだろう……たとえばキミは路上を走るマラソンランナーの29.8%を迷惑に感じられるだろうか?
路上ライブをするミュージシャンの29.8%を迷惑と感じるだろうか?
29.8%は果たして『多い/少ない』のどちらなのだろうか? ――いや、そもそもマラソンランナーは勝手に敷地内に乗り込んで勝手に雑草を刈ったりなどはしないか。
考えれば考えるほど坩堝に嵌まってしまいそうな危機感がある。これを科学的に追求した研究論文があれば良かったのだが、残念ながら数字や比率的なデータ資料は見つからなかった。
撮り鉄が実際に
これは撮り鉄側にとってフェアじゃないだろうが、まあ昨今の流れからして仕方ないのだろう。
最後に実体験を書く。近くの撮影スポットではなかったが、別の場所で撮り鉄の迷惑行為らしき現場を目撃したことがある。
そこは線路と車道がまっすぐ並走する撮影には良い環境だった。その道端に車がポツリとひとつ。トランクが空いており、近くには草刈り機をもったオッサンがいた。彼が、鉄道会社から委託され草刈りに訪れた人間であると前向きに考えたいが、私用車で私服という状況からして無理があるだろう。
私服もまあ、いろいろポケット満載のジャケットで、いかにも撮り鉄が好きそうなスタイルだったことも追記しておく。わたしの記憶違いがなければだが。
:撮り鉄が迷惑行為を公然と行える心理:
インターネットが盛んな時代。撮り鉄のマナーに関する投稿があちこちで見られるようになった。ここで紹介するまでもなく、YouTubeではいろんな迷惑行為が見られる。
いや、個人的には『撮り鉄』という検索ワードだけで九割以上が迷惑行為関連動画になるのが恐ろしかったりするのだが……とりあえず、撮り鉄が行う迷惑行為を列挙してみよう。
・進入禁止区域に侵入
・駅ホーム内で脚立に乗り
路線に身を乗り出し撮影
・迷惑行為を注意され叫び怒鳴りつける
・撮影に邪魔となる樹木を勝手に伐採する
・その他
書いてる途中で恐ろしくなった。よくもまああそこまで情熱を注げるものだなぁという関心と共に、他者を顧みず実際に電車を止めてしまったりする事実に戦々恐々とする。
なぜ彼らはこうまでも……そう、
社会心理学の研究によれば、鉄道趣味の人々と自閉症スペクトラム障害(ASD)の関連性が以前から言及されているようだ。発達障害のひとつ。
勘違いしないでほしいが、発達障害は発達が遅れるという疾患ではない。発達の仕方が特徴的だということだ。だからいわゆる"ふつう"とされる基準より発達が遅れることもあれば、逆にとんでもなく発達しまくってしまう場合もある。
ネット界隈ではよく侮蔑の言葉として使われるらしい『アスペルガー』も発達障害のひとつ。人は表情、姿勢、言葉の強弱などで相手の意図を察することができますが、アスペルガー症候群の方はこれが少し苦手なので皮肉的な「やってくれてありがとうよ!」という言葉をそのまま受け止め「どういたしまして!」と答えてしまう。
言葉のウラを読むのが苦手ってことですね。自分から発言する時も同じで、まあ空気読めないとか思いやりがないと
ASDは、コミュニケーションが難しいこともそうですが、興味ある範囲がとても限定的になるという特徴もあります。他人から「えをかいましょう!」と言われ画用紙を渡されて実際に
まとめましょう。電車趣味全般とASDが関連付けられており、電車趣味の方はたとえば、興味ある路線の駅名をすべて言えたり、撮影する絵に並々ならぬこだわりをもっていたりするということ。
もちろん、これに関して懐疑的な研究もあり、まだまだ研究が進んでいます。撮り鉄は迷惑行為だけがピックアップされてる事情があり、上記はなかば"イメージ"であるということをお忘れなきように。
なお、近年は撮り鉄の自浄作用は否定されつつあり、鉄道会社が積極的に『邪魔鉄』をはじめてるようです。撮影できないようにライトを遠目にしたり、侵入可能ラインをより厳しく取り締まるようになったり。
対処療法にしかならなさそうではあるが、これでも迷惑行為がやまなければよりいっそう激しい規制が考えられるのでしょう。
こうなれば自浄作用もあったものじゃない。自らの"課題"を見つけ解決に向かう
健全な議論、ルールの遵守、なにより信頼関係と開かれた環境。これがあれば自浄作用が期待できるが――すでにカオスな状況になってしまった集団において自浄作用なんて期待してはいけない。日本社会はどうでしょうね?
たまに見受けられるのは、撮り鉄さんにインタビューした際の「一部の撮り鉄の迷惑行為が~」という文言。いやいや待てと。おめーらの身内が迷惑かけてるんだからおめーらでなんとかしろよ、という意見がありそうだ。
とはいえ、それは難しいだろう。同じ趣味であるというだけで見ず知らずの他人が起こした迷惑行為をどうこうする勇気と行動力を通常の人間は持ち合わせていない。
心理学的に『傍観者効果』を使ってあれこれ書き流すことはできるが、趣味が同じだけでまったくの他人に対しあれこれ言うのは難しいだろう。もちろん、そうしてくれれば撮り鉄全体のイメージアップにもつながるだろうが。
やはり、迷惑行為をする撮り鉄と実際の迷惑な人の比率を比較してみなければわからない……現時点では、心理学的に撮り鉄の心理を考えるには数字が足らなかったか。
ややこしく書きすぎたのでまとめる。
・撮り鉄の一部が迷惑行為を行っている
・鉄道趣味の人は男性が多い
・自閉症スペクトラム障害(ASD)との関連性が
指摘されているがまだ研究段階
・迷惑な撮り鉄の比率と全人口における迷惑な人の比率を
比較してみなければ、撮り鉄がギルティかどうかは未知数
なんとも白けた結果になってしまった。あれもこれも玉虫色じゃないか。
しかしまあ、撮り鉄が行う迷惑行為があまりにも非常識であることは事実だ。どんな迷惑な人であれ、まさか他人の敷地内にある樹木を勝手に伐採したり、集団で場所を占拠したり遮断器が降りてもなお内部にとどまったりなどするものか。
何かあればすぐネット上に晒される現代、撮り鉄の迷惑行為があまりにも常軌を逸しているが故、撮り鉄の迷惑行為がメジャーになっているのだろう。その流れで、撮り鉄のイメージが最悪になっているのだろう。
――あるいは、実は他の趣味でも同じような迷惑行為者がいるけど撮り鉄だけ取り沙汰されている? いや、それはないというか考えたくない。日本はまだ平和だと考えたい。
撮り鉄。キミはこのワードにどのようなイメージをもつだろう?
美しい電車を撮影してくれるありがたい人?
カメラや鉄道企業に献金し経済を回してくれる人?
傍若無人悪逆無道な迷惑人?
もしかしたら、キミのまわりでこころを痛める撮り鉄がいるかもしれない。そんなときはそっと肩を撫でてあげましょう。もし迷惑行為をする撮り鉄さんであれば、その時は思いっきり肩を叩いてあげましょう。
鈍器で。
という冗談は置いといて、キミの人生に幸多からんことを。