犬っているじゃん?
四つ足の毛むくじゃら。人間をひと目見るやすぐさま駆け寄って、しっぽブンブン振って、飛びついて、顔面ペロペロしてヨダレまみれにしてくるヤツ。
めっちゃかわいい。
かわいーんよ、ほんと。うちにも黒いラブラドールがいるんだけどね? ほんっとかぁいーの!
芸もできるんだよ! お手はもちろん指をまわすとクルクルしたり、身体をブルブルしたりできる。だけど気分が乗らない時はしない。自由気ままなわんわん。
ある人は「飼い主の言うこと聞かないのはしつけがなってない証拠」と言う。言いたいことはわかる。けどそんな人は、人と犬の間でもっとも重要なことを忘れてる。
今回はそんな、人と犬の"絆"に関する話をしよう。
:犬を支配するという傲慢:
犬といっしょに暮らしてりゃ、だれだって犬とさんぽする瞬間がある。
ラブラドールは大型犬。国によっちゃ中型扱いだけど大型犬だからさんぽの時間がめちゃ長い。ためしに犬の思うがまま歩かせてみたらとなり町までぶっちぎりやがった。
いやあなた、日光市は全国3位の面積よ? どこまで歩きゃ気が済むねんと。
好きに歩かせると電車並にどこまでも続く。それが犬という生き物。さんぽルートは様々だけど、わたしは『犬が行きたいところ』に行かせてる。
もちろん、ある程度のコースは用意してある。けどどのコースをどう行くかは犬まかせ。だから犬が先手をゆき、わたしはそれに引っ張られる形になることが多い。
誰に言われたか覚えてないが、さんぽ中にこう言われた。
「犬を先に歩かせるな。ナメられる。しつけろ」 ――せやろか?
答えは否。そんなんでナメられるわけない。
日本の犬感はひと世代、いやふた世代くらい前のもの。いわゆるアルファ理論と呼ばれるものが広く認知されている。古すぎて草も生えない。
すでに何十年前に否定された理論なのに。
その理屈では、犬は群れ(家族)のなかでリーダーになりたがるから、主従関係をしっかり叩き込まなければならないという。
繰り返す。これは何十年も前に否定されてる。犬はオオカミから分岐したとされてるので、人は犬を研究するためオオカミを研究する。オオカミの生態がつまり犬の生態だという解釈。
オオカミは上下関係があり、リーダーに絶対服従だ。そう考えられてきた。けど研究していくと違った。
序列自体はある。けどそこまでガッチガチなものでなく"あそび"もあるし、序列が下のものに食い物をやる場合だってある。そういったことが明らかになれば「あれ? アルファ理論って実はちがくね?」という考えが広がっていく。実際、犬にアルファ理論を当てはめるのはムリがある。
人間といっしょなだけだ。アレしたコレしたいという欲求のまま自由にさせてたら、そのうち欲張りになってワガママになって手がつけられなくなる。
つまり、アルファ理論の考え方に当てはまってる、ように見える犬は、飼い主がそうさせてきてしまった結果なんだ。
犬の"しつけ"というワードには、なぜか犬に言う事聞かせて服従させるようなニュアンスが含まれる。言う事を聞かなければ罰を与える。そんなの傲慢だ。なぜ"お手"ができないだけでおやつ抜きになってしまうのか。
そもそも、個々の飼い主にとって『言う事を聞かせる/服従させる』という行為は良いことなのだろうか? ――キミたちはあたらしい
しつけとはなんだ? キミは犬とどういう関係でありたいんだ?
:ノーのひと言だけでいい:
しつけとは『犬と人が、互いに良い関係でいること』の方法論でしかない。そして、犬はオオカミより人間と心を通じ合わせる能力に長けている。
こころをつうじあわせるぅ? なに書いてるんだ? などと言われても実際にそうなのだから仕方ない。疑うならこれまでの動物行動学に関する知見をいろいろ調べていただければすぐわかるでしょう。
たとえば人と犬が触れ合うとき、幸せホルモンであるオキシトシンが
良い関係を築くにはどうすればいいか? 重要なのは『犬に"意志"を伝えること/犬の"意志"を察すること』だ。
外国人とコミュニケーションするとしよう。ただし相手の言語はわからない。それでも通じ合わせなければならない時、人は互いにジェスチャーや視線など、ありとあらゆる情報をもって伝えようとするはず。そしてそれは犬との間でも変わらない。
犬にはしたいことがある。さんぽ行きたい、食べたい、遊びたい、寝たい、匂いをかぎたい、飛びつきたい。
さんぽ中も、犬はあっち行きたいこっち行きたいと意思表示をする。ロープを引っ張ってある方向に進もうとするわけだ。
そこで人間がしてあげることは『行く/行かない』の意思決定と、それを犬に伝えること。だから、わたしは犬の目を見て「ノー」と言う。
これだけで、犬に『そちらの道には行かないよ』という意思表示をする。そうするだけで、犬はその方向に進むのをやめるのだ。
これがコミュニケーション。これが信頼関係というもの。もちろん、犬を服従させるわけでなくその意志に委ねる選択だってできる。かんたんなことだ。引かれるがままその道を歩けばいい。
あるいは、そのまま交渉に発展することもある。こちらがノーと言い、それでもなお犬が「行きたい」と引く力に踏ん張る。ならばと道をゆずってもいいし、さらに「ノー」と声をかけ断念させることもできる。
最終的な決定はこちらがする。けど犬の意志を最大限尊重する。たしかに、わたしはロープを犬に引っ張られつつさんぽをするが、これは決してナメられてるわけでないし、またしつけがなってないわけでもない。
少なくとも、犬といっしょに暮らしてる方ならこの差がわかるはずだ。
:親子のように:
犬のしつけは人間の子どもへのしつけと同じだ。
犬に人間の生き方を教え、家庭におけるルールを教える。やっていいことを教え、やってはいけないことを教え、犬にとって良い環境を提供してやればいい。
犬は人間の言葉を覚える。アクセント、イントネーションも覚える。褒められてる時の人間の動きを覚える。だからルールを覚えさせるのはわりとかんたんだ。
ひとつ注意が必要なのは、指示(コマンド)はなるべくそれぞれわかりやすく設定すること。たとえば『おすわり』の合図。これは飼い主さんによって「おすわり/すわれ/sit down/sit」などバリエーションがある。
これらを混同してはならない。犬に座ってほしいのなら、そのためのコマンドはひとつに絞ろう。じゃなければ犬が混乱してしまう。ジェスチャーを混ぜ込むとより効果的に覚えさせることもできる。
褒めるときの言葉もひとつに絞ろう。そうすれば、犬が褒められてることを自覚できる。候補は「よし/いいこ/good」などあるね。それらのひとつを褒め専用ワードにして、他は使わないようにしていこう。テンション高く笑顔にするとなお良いでしょう。
褒めにもいろいろテクニックがあるが、とりあえず『アッパー・ダウナー』な褒め方を使い分けておこう。
アッパーとはみんながやる「よーしよしよしいいこいいこ!!!!」なハイテンション。わんちゃんもすぐ褒められてることが理解できるね。でもちょっとまって。
犬を落ち着かせる訓練をする場合、褒めをコレにしちゃうとまた興奮させてしまう恐れがある。っていうかフツーに落ち着けなくなるわ飼い主がそんな態度だと。
ってことで、落ち着かせる訓練をして、成功して褒めるときはダウナー系の褒め方にしよう。しっとり背中を撫でてやりつつ「よぉーし、いい子だね」とやさしくささやいてあげてください。
褒め方をまちがえると逆効果になります。その子に見合った褒め方をしましょうね。
叱ること。現代の犬のしつけは、もはや罰を与えることをしなくなりました。意味がないとわかったからです。
いや、もちろんキミが『支配する/服従させる』という目的をもつなら罰を与えても良いでしょう。けどそうじゃないよね? キミは犬とどんな関係を築き上げたいんだい?
叱るのは罰ではなく『その行動を望んでないと伝えること』を指します。ティッシュを食いちぎりまくるとか壁をひっかきまくるとか、まあ飼い主さんなら経験あるでしょ?
叱る際の最大のポイントは『現行
なんのこっちゃ? ――犬は何かやって、それが成功してしまうとその行動を加速させます。つまりティッシュを食い散らかすという行動を積み重ねることでクセになってくということ。
なので、犬が"人間にとって都合の悪い行動"をとりそうな時に叱りましょう。短く鋭い声をかけてもいいが、この時はただ『睨みつける』というのもわりと効く。犬は人間の態度、視線、威圧感などを感じる能力があります。
犬は自分がしたことをすぐ忘れる。だから犬にとって『今しようとしてること』を叱らなければなりません。じゃないとなんで叱られたかを理解できず、人間にとって都合の悪い行動かを判断できないので。
なので現行前犯逮捕。ゼッタイに成功体験を生み出してはならない。やってからでは遅いのだ。完全に、犬が興味を失うまで威圧し続けるのだ!
声出し叱りの場合は短く「コラッ!」くらいで済ませる。マズル(鼻先)をつかむなんて言語道断やっちゃダメ。あとわんちゃんの名前で叱ると、自分の名前を『叱られる合図』と認識してしまう恐れがあるので控えましょう。名前は愛情たっぷりの感情で。
しつけってなんだろう? そんなことを日々考えたりするし、あるいは"しつけ"なんていう概念すら必要ないんじゃないか? とさえ思える。
犬はすきですか?
犬といっしょに暮らしてますか?
キミにとって犬はどんな存在でしょう?
わたしは犬がすきです。だいすきです。もしキミも犬好きだというなら、どうぞ教えてください。心のなかでいっしょに酒を呑み交わしましょう。
キミと、キミの