売り手市場。いま、日本でよく言われる言葉だ。
求職者より求人数が多い状況を指す。ざっくり書けば「求職者が有利」と言われている。実際、総務省や厚生労働省が公表してる『労働力調査』などのデータでは労働者人口が増えている。とくに女性の社会進出が顕著らしい。
賃金に関するデータを見ると給与も上がってるようだ。ただ、メディアや政治論争で取り上げられているように、消費者物価指数と比較すればまだまだ"伸び"が足りない印象。とはいえ、このまま進めば順調に人手不足が解消されていく……のだろうか?
人手不足が話題になってからけっこう経つ。どれくらい経ったか忘れたがとにかく"けっこう"だ。が、いっこうに人手不足は解消されない。どこぞで「人手不足が解決しました!」といったニュースやネット記事、SNSで見かけることもない。
なぜ? という話を考える。いや考えよう、キミも。
:ある方の経験談:
どこの業界も人手不足だ。ということで、わたしがよく知る人も人手不足に悩まされていた。そこで会社、社長に「もっと人雇って」とリクエストを出していた。
ずーっと。なんども。数日、数週間、数ヶ月。いっしょに仕事をしてる人もその意見に同意だった。
ある時、その人は社長と話をした。何気ない世間話のひとコマに、ふとしたきっかけで件の流れになった。いっこうに新人がやってこないので、その人は人手不足は本当なんだなぁと思っていた。
そして、その人はこうたずねた。
「求人出してるんですよね? 応募来てるんですか?」
そして、社長はこうこたえた。
「うん、何人か来て面接もしたんだ」
その人は仰天した。と同時に「同じパターンか」という思いも抱いた。お年寄りが空いた時間を活用したくて、はたまた本業が別にあるので副業としてほそぼそと。そんな意図で応募してくることもあったからだ。
が、どうやらそうでもないらしい。きちんとした人、と表現していいのかわからないが、とにかくしっかり働きたいという人が面接に来て、それでも採用を見送ったそうだ。
人手不足を訴えている現状、それでも見送りを選択するなら、よほど向いてないような求職者が来たのだろう。その人はそう思った。
「いい人材だと思ったんだけど……ちょっとわからなくて」
「なんで雇用しないんですか?」
「いやぁ、
その時、わたしがよく知る人は背中にゾッとしたものを覚えた。
自分を必要としてくれるなんて嬉しい! という感激でもなく、暗に評価されていたことに対する感動でもない。
社長はこう言ったのだ。現場の人手不足なんてどうでもいい。現状でも働いてくれる人がいるのだからそれで構わない。
いやいや待てと。社長もそんなつもりで言ったわけじゃないかもしれないだって? ――無意識でこのセリフを口にしたのならなおのことたちが悪いとは思わないか?
わたしがよく知る人は、この後そう時を経たずして職を変えたそうだ。
:売り手市場だけど就職難?:
ざまぁを求めてるワケじゃない。そんなものはフィクションの世界で充分であり、リアルの世界はだれもが、それこそ全世界みんなが笑顔になれるのがイチバンに決まってるだろう。
理想論で言うなら人手不足を叫ぶ社員がいて、それに問題意識を向ける幹部や社長がいて、求人を出して新しい人材を確保するでも仕事量を調節するでも工夫してくれればいいのだ。そういう世界こそ《あたりまえ》にしていくほうが良いに決まってる。
が、残念ながらそこはそうじゃなかった。物語はこれで終わりだ。
新しく人を雇う場合、日本の企業はその人材を解雇しにくい制度になっているそうだ。つまり、人を雇うときは慎重にならざるを得ない。とはいえ、企業側は自社が求めるような人材しか――つまり超優秀な人材しか求めていない。そのハードルを下げるつもりもない。
実際、企業維持のためにはその姿勢がイチバンだったりする。経済学的な、あるいはコンサルティング的な側面でもよく言われるようだ。人手不足ではあるが今の日本は経済が成長していない、どころか後ろ向きなのではないか? という風潮もある。
そういうとき、多くの企業は"まもり"に入る。人はほしい。けど自社の理想にそぐわない人材はいらない。その結果どうなるか? ――求人票はたくさんある。けど求人自体はない。
なんだこの状況。
まあ、これはわたし個人がいま咄嗟に考えた妄想です。実際はどうなのか? というのは専門家に伺うのがよろしいでしょう。いやまあ、ここに書いてある《妄想》もいろいろ参照してたりするのですがね。
:空前の転職ブーム:
テレビをつければ「転職しよ!」のCMが流れ、SNSを開けば「転職しよ!」の広告が乗り、YouTubeを見れば「転職しよ!」の映像が流れる。
すっげーなどんだけ予算注ぎ込んでるんだよと。
しかし、ここで勘違いしてはいけない。今の時代、転職を斡旋、紹介する企業があちこちで立ち上がり、盛り上がっているというだけで、つまりこれはブームなのだ。転職関連企業の。
とはいえ、例によってお国のデータを参照してみると、やはりというか転職者の人口は増えているらしい。転職希望者に関しては2023年時の調査においては過去最高人数だったようだ。
転職に関するCMが"若い人"にスポットを当ててる理由は、当然ながら転職者の多くが20代だからだ。企業側に立って考えると、そういった若人なら将来有望な人材のほうが望ましい。だからこそ、そういったCMは「なんで自分の力を評価してくれないんだ!」的な、ある意味"燃えてる人"を登場キャラクターにしてるのかもしれない。
ちなみに、転職業種としては宿泊、飲食、サービス、小売、医療福祉などが上位ではあるが、逆に
まあ、人手不足なんですけどね。
求人票は出す。けど求める将来有望か即戦力以外はすべて排除する。まあ、企業の生きるか死ぬかがかかってるのだから必死になるだろう。わたしが経営者の立場でも同じ選択をするかもしれない。
たった十数分間の面接。かんたんな経歴が記された書類だけで何がわかるんだというツッコミは社会に生きる人の多くがもっていることでしょう。新しい人材が来たのに「おい人事ぃ! なんでこんなポンコツ採用したァ!」と怒号が飛び交うこともあるかもしれません。あるのか?
逆にテキトーに「とりあえずキープしとこ」という思いで採用した子がとんでもないハイスペックかもしれない。リスクを避けたいという思惑から、たった十数分の面接で図ろうとするため〇〇テスト的な評点や設定した評価基準にすべて頼ることとなり、その結果上記のような人材とめぐり会わぬようご注意ください。採用された側にとっても不憫なことなので。
キミの職場はどんな感じでしょう? 人材不足ですか? わりと足りてますか? 企業側は新しい人材を雇うため尽力してますか?
もし《いろいろ》あるのでしたら――ちょっとヒミツなのでコメントでおしえてください。ここでばーっと叫んで憂さ晴らししちゃいましょう。
キミとキミが働く職場、もしくはキミが社長をやってる会社に幸多からんことを。