シノティラが居間に来ました。
「ええ、今朝早くに咲いたそうです」
フィサに持ってきた茶を、卓に置きました。
「イエドはどうしてますか? 樹の下に居るでしょう?」
「おお、あそこに居たのか」フィサは手を
フィサはぶつぶつと、評論を
「ユウエリマに不安なぞ抱かせよって……。旅立つ者に送る激励くらいは、てまえお得意の芝居で言ってみたらどうだ!――お
横になったままのイエドは、それがフィサの
「……
その顔の前に立ったフィサの足元から、横目で睨みました。
「……はんっ。お決まりの態度だな、小僧。ねぼすけでないと言うのか」フィサは、次第に口調を静かにしました。「ユウエリマはわしに嘘なぞ言わんのだが、
「……さあて、小僧。話がある。まずは、座らせねば」
フィサは一声「ふんっ」と気合を入れ、イエドを慣れた様子で
「あ、わたしがしますから――」シノティラは、縁側から走り寄って来ました。
「いい、いい。わしの用だ。イエドにはきちっと、聞く態度というもんをとらせてやる。――ほれ、
フィサは、樹の下の車椅子まで運びました。
イエドは車椅子に座りましたが、何となく、足元の物足りなさに少し気落ちするのでした。フィサはイエドの前で腕を組んで、話を続けます。
「さて、話と言ったのは、いつヤイチへ発つかについてのことだが――」
一方のイエドは、夢の
「出発は
イエドは、はたと顔を上げて、フィサを見ました。
「ようやく、本番の目つきになったか」フィサは腕を組んだまま、イエドを見下ろして言いました。「あのユウエリマが、この町ではおまえのことが気掛かりになってしょうもないようだからな、予定を早める。ユウエリマは、
すると、フィサはシノティラに振り向き、「こりゃ、失礼した。人さまの子息に『小僧』ではいかんな、訂正するよ、シノさん」と言いました。再びイエドの方に振り返りました。
「イエド。それで、だ。明後日、おまえが港まで見送りに来るんならば、それが旅立つユウエリマにとって、おまえと顔を合わせるひとまず最後の機会だ。
……わしが一人して事の次第を進めていると思うなよ。おまえが自分で
「……あいつ、上手い芝居だった。おれはそのとき、あれが芝居と気付いてなかった。それで今朝、ユウエリマの決心していたことを聞いて、
イエドは樹を見ながら言いました。
「――それも違った。あいつは、行き先がしっかりあるのに、わざわざ、おれの
フィサはイエドの様子を見て、いつもと違う印象を持つのでした。ユウエリマが言っていたイエドの「落ち込み様」は、フィサには「落ち着き様」に見えました。
「まあ、何だ――思い詰められて、そのような、わけの分からんこと言われても、こっちが困るぞ」フィサは空に目をやって言いました。
するとそこへ、シノティラがフィサとイエドの間に入り、言いました。
「いいえ……イエドが思い詰めて、悩むくらいじゃないと、恩返しになりません」
シノティラは、
フィサは、孫に半分は感心しながらも、もう半分は呆れていました。
「うーん……。もしや、と思っていた通りだったか」
フィサは
そして、居間に入り、そこの卓上の茶を手にし、おもむろに飲み干しました。
「ふうっ、うまかったよお!」
「そう、よかったです」シノティラは応えました。
そしてフィサは、縁側から声を張って呼びかけました。
「
イエドはそれを見ていました。
「明後日の朝、また会おう!」フィサは家を
少し
「…………必ず行く!」
その声は屋根を越え、坂に