ボクは、落ち着いた口調で話しました。
「船長は、すごい人なんだ。ボクの知識は、船長の話の受け売りなの。ボクは、船長に引き上げてもらった。ボクの意識――いや、心――それとも、精神かな、そういうのがどこかを
こう船長から聞いた。ボクには途中の記憶がなくて。意識不明じゃ、当然のことだけれどね。ボクは、船長に引き上げられて、この船に引き取られた身分で、乗客じゃないんだよ。本当に最初は何も見えなくて、どこに居るか分からなくて、船長の声にただ耳を向けた。それから少しずつ分かり始めたの」
イエドは、そのいきさつを聞いて言葉が出ませんでした。ボクが
「ボクの現実――船長の推測だけれど、違いないよ。そうだな……まず――ボクは病気で、失明していたみたいだ。船長は、失明前のボクの記憶を呼び覚まして見えるように、あの星がボクの心に現れるまで、ボクに語り掛け続けたんだ。ボクは、昔の記憶、色や光や形……とにかく一心に、船長の言葉を見ようと、暗いなか探し回ったんだ。そのことを、船長は、記憶の
その筆記帳は、始めの頃は透明でね、何も書かれていないの。透明の本なら、何度も捲らなくたって書いたものが見える。ボクは、失明の期間の方が長かったようだから、どちらかといえば透明に近かったらしいよ。それで探した記憶はね、白とか、丸いとか、明るいことに関係することなんだけれど……。とても小さく書かれていたのかな、探し出せたのは、ほんの一部なんだ」
イエドは、何か一言でも、と思いました。すると――。
「イエドも思い起こしてみて。ボクの見る、
ボクは、今までと変わらず、目をしっかりイエドに合わせて言いました。
「心に描いてみて……一つの白い花が光り輝いて、全部の花びらが
……これでイエドに伝わっているなら、あの辺り、
イエドは、ボクの言葉に導かれ、意識を集中させていた心象の中から星空へ視界を広げました。自然にイエドの脚が立ち上がり、窓の
心象の中だけでは虚像のようだったものが、イエドの目が
「見える? どう見えるかな?」ボクは、一心に星を見るイエドに遠慮するように、小声で
イエドは見るものをそのまま伝えようと、話し方が速くなったり遅くなったりします。
「
イエドがちょっと目を
「うん? 今度は、何か重なっている――」イエドは、少しも見逃せない、という気分になりました。
「あっ。イエド、ボクの言ったこと、あまり気にしないで見てほしい」
ボクは前のめりになって窓の縁に手を伸ばし、イエドの横顔を見ながら言いました。
「ボクの見た感想は、あてにならないから。だって、ずっと前から
「……そうなのかなあ」
イエドは
「きみが言った、記憶の筆記帳だっけ? おれのは透明じゃない気がするけれど、いいのか?」
「星はたくさんの集まりなんだ。たくさんは、一種類がたくさんでも、
イエドは目を凝らして見続けています。
ボクは窓の縁から離れ、言いました。
「そうだなあ、ボクは区別するのも、そうされるのも怖いんだ。ボクにとって、実像と虚像の境目は薄いかなあ。だって、そういうことが分からないからさ。
ボクは、
「こんなこと言ったら、イエドが集中できなくなるね……」
独り言のように、ボクは呟きました。