ボクは暗い通路を走り抜け、
「船長! 空へ戻って下さい!」
ボクはその勢いのまま扉を押し開き、言いました。
「どこへ向かっているの、船長?」
この暗く窮屈な部屋は、木造りの床を
それら全ての明かりを受ける、操縦席の黒い影。それは船長でした。
かれは上部に掛かる電波結像機を見ているようでした。
「どうして? まだ行き先は決まっていないのに」
ボクは言いながら、船長が座る操縦席の裏側に付いて、覗き込みました。
「船長? そこへは、行けないはず――」
「行けることになった」船長は、低く通った声で言いました。「コドさんの行き先になったからには、どこへでも行けるのだ」
ボクは船長の前に立ちました。
「いけない、いけないよ」ボクは顔をしかめて言いました。不機嫌な子の、泣き出しそうな声でした。
「勿論、きみは行けない。が、コドさんは行く。すでに、ご自分の一切を確認なさったのだ」船長は傍の切り替え器を操作して、操舵室全体を明るくしました。
不明瞭だった船長の丸い頭が鮮明に見えました。
一面茶色の毛、白目の少ない大きな目、豆形の湿った鼻。
船長の顔は、獣のようなそれは、猫顔でした。
その
「向かうぞ」船長は、席の横の変速装置の
それを見て、ボクは声を上げました。
「船長! 待って下さい。ボクの頼みを優先する約束だったでしょ? その方向じゃなくて、朝陽の空に……いつも行っていたあの空、コドおじいさんだって、きっとまた行きたいはずだから――」
すると、船が揺れました。
「向かう場所は、客車だ。コドさんの元だ」船長は大きな目を半分閉じて、前を見据えたまま言いました。
そして、
「船長」ボクはにこりと笑みました。「おじいさんを説得してくれるんだね? さあ、早く!」
船長は席を立って間もなく、ボクに腕を引かれて
開け放たれたままの操舵室からは、明かりが射していました。
ボクはただ一心に船長の腕を引っ張り、前進していました。
船が激しく揺れました。短い間小刻みに、上下へ動きました。
ボクは思わず立ち止まり、
「……止まった?」ボクは言いました。
「止めたのだ」船長は言いました。「が、行き先は近い。ここで降りるのはコドさんの自由だ」
ボクは握っていた船長の
暗闇の中、走り続けました。
そのまま
ボクは走り続けても、扉が見えてきませんでした。
何も見えませんでした。黒一色だけが広がっていました。