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十五 居合わせた〝夢〟の共通点

 イエドは、自分がコドの時間を持っている気がしてきました。

 そして、夢の中と分かっていても、時間が過ぎて、窓の外の光景が移り変わることを知ったイエドは、行動を決意しました。


「コドさん。ボクが戻るまで、行かせない」

 イエドは立ち上がり、通路側に立ちまりました。

「おれは、自分の行き先が分からない立場でしかないけれど……、ボクがコドさんと一緒に行き着く所は、まだ先だと思う。もう一度、一緒に、日の出を描いて、……やり残したこと、……忘れ物がないか教えてくれるかも――。

 それか、コドさんと……コドさんとの別れの準備くらいはしてさ、見送りをする時までは……」

 イエドはボクの心を想像しながら、自分の言葉をつなぎましたが、めました。


 説得力の欠けらもない……。


 イエドは、自分の考えが疑問に思えました。

「おれは、何を分かっていて言った? この感じは〝虚像〟なのか? おれにはそういうボクの心しか、見えていない――」

 悩んでいるイエドをよそに、コドは窓の外を眺めながら言いました。

「ボクちゃんは、大いにかしこい子ぢゃ。して、とてもおっちょこちょいな、わからず屋さんなんぢゃよ……。

 悩めるイエドや。そんなおまえの思いと近いんぢゃ。わしも、ボクちゃんをさっき言ったくらい知っとる。これよりもっと上等じょうとうやら、もっと下等かとうやらを気にするでないぞ? わしらは同士ぢゃ。夢ん中で会い、少しでも知り合ったでな」

 すると突然、船が短いあいだ小刻こきさみみに、左右へ動きました。


 船が激しく揺れだしました。


 イエドは通路のゆかに倒れ込みました。

 コドは、ただうつむいて座っていました。

「ここで……停まるか」コドは言いました。

 船は重たい振動を響かせ、停まりました。

「わしはここでりよう。しかし、おまえたちとの同士のつどいからは、降りぬぞお……」コドはうつむいたまま、ゆか腹這はらばいのイエドへささやきました。

 そして、コドは立ち上がり、窓に向きました。イエドはゆかし、コドの背中を見上げました。今にも窓を通り抜け、行ってしまうように見えました。

「ま、待つんだ。それに、そこから出られるはずは――」イエドは立とうとして、腕を座席の肘掛ひじかけへ伸ばしました。

 しかし、届きません。脚には力すら入りませんでした。

「脚が?——まさか、こんな時に!」

 イエドは窮地きゅうちの表情で、しかしあきらめず、前を見続けました。上半身じょうはんしんの力だけで体を起こし、腕を伸ばそうとし続けました。

「脚さえ、動けば……」

 すると、コドは余裕がに、振り向きました。

「……おお? こりゃあなんとお!」

 イエドは、いつか聞いたようなこの声を再び耳にして、すっかり真剣しんけんさが抜けてしまいました。


「なんとおなんと、イエドも立てぬ脚を持っとったんかい! じつはわしも、そうなんぢゃぞお?」コドは笑いました。

 イエドはそれに対して、ただ苦く笑うしかありませんでした。

おそれったかい?」コドはイエドに手を差しべて、言いました。「……やっぱり、同士なんぢゃ。夢ん中に居合わせたくらいの因縁いんねん。それがあるでな、イエドや。わしらはあっちでも、無縁むえんなんぞでないっちゅう証拠ぢゃ!」

 コドは、窓の外側からみ込んでくる光におおわれ、たくさんの小さな星星を周りにともなっていました。

 イエドはそれをの当たりにし、言葉がありませんでした。そして差し伸べられた手を見てから、その先のコドの顔を見つめるだけでした。

 イエドの表情がけわしくなってくると、コドはその手を引き、自分の脚を軽くたたいて見せました。

「わしはこの脚で、ちょっくら行って来る」コドは言いました。

 そして軽快けいかいきびすを返し、光の中へ歩いて行きました。

 イエドの視界は、光におおい尽くされました。

 その中はまぶしくはなく、白だけが見えました。

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