シノティラは何も言いません。イエドはそわそわと、シノティラの
イエドは驚きました。シノティラの頬には涙が
心は
ところが、それはイエドの思ったような涙ではありませんでした。
「悪いことなんか、してないじゃないの」シノティラは目元を指でなぞりました。「イエドはイエド自身でいれば、わたしはかまわないの。今のイエドは、わたしが産んだときと比べれば、本当に大きくなったよ。もうイエドにだいたいあげたんだから。……わたしの望みがどうなったとしても、イエドの望みが、いつかはわたしの願いになってくるもんなのよ」
シノティラは落ち着いて、今度は強く言いました。
「それに、わたしの望みは変わらないのかもしれない。イエドの望みは、あれから変わってない?」
「……
シノティラの涙は、イエドの心の
「でも、あのときできたことが今はできない。何をすればいいのか分からないんだ」イエドは
シノティラは、ふと気付きました。そして、心の
「まあそうよね。でも、平気じゃない? 誰だって小さいときから、できることを見付けながら成長するものだから。イエドが言葉を初めて話した時を
シノティラは、思い出を語り始めました。イエドを
生まれたばかりの泣いているイエドを抱いて一緒に大泣きしたキュンドのことや、家族や近所が集まって
「……こういうことも、イエドに話すべきだったんだね。わたしもやっと気付いた」
イエドは、歩くことができないので落ち込んでいましたが、
「……少し、救われたような、落ち着いたような気がするよ」イエドは明るい
「イエド。ユウエリマにもそう言いなさい。わたしがこうして思い出したのも、ユウエリマの
「ユウエリマの
イエドはユウエリマを思い浮かべました。笑っているように見え、その
「ユウエリマの家族、会った記憶はある。でも、フィサじいさん以外は今どこに住んでいるんだろう。昔はよく家に来ていたっけ」
そして、イエドは何気なく言いました。
「……あいつは言ってなかったけれど、卒業のときには来たんじゃないかな」
すると、シノティラがイエドをまっすぐ見て言いました。
「……あのね、イエド」
イエドは、シノティラの真剣な表情にぎくりと心が固まりましたが、何か覚悟をしなければならないと感じました。
「今から話すことは、イエドが見てきたユウエリマがずっと心に抱いていたこと……」
再びシノティラが話したのは、イエドの記憶と心を揺れ動かすことでした。
シノティラは、目線を落として言いました。
「ユウエリマのご両親は、
庭に山からの強い風が吹いてきました。
イエドの心の
そのときイエドは、普段
ユウエリマは、段段と変わってきました。強くなってきました。しかし、悲しさが大きいからこそユウエリマは強くなろうとしてきたことが分かりました。
イエドは思いました。――自分は今まで何のことで落ち込んでいたんだ。ユウエリマに比べたら……、このままではいけない。
シノティラは、庭の
「これまでは、遠くで働いているとか都会の病院に居るとか、あなたに嘘を言ったこともあった。けど、本当はいけないと分かっていた。……イエド。ユウちゃんは、長く悲しさと
ユウエリマは、やっと上を向いて自分の心を見つめ直したんだね。イエドは聞いた? ユウちゃんね、本当に国士になりたくてあの学校に入学したの。自分を変えるためだったんだろうね」
イエドは深刻な表情になりました。
「みんなは、ユウエリマをちゃんと見てなかった。おれも……同じだったかもな」イエドは息をつき、庭に顔を向けました。
シノティラはその横顔を見て、もっと早く話すべきだったと感じました。
すると、イエドは
「あー、そうか。そうだったんだ――」イエドは
その目には、イエドが今まで見てきた、ユウエリマの
ユウエリマが、
しかしその望みが、イエドの