イエドはしばらく黙って、溜め息をつきました。
「もう疲れた。何も言う気になれない……」
イエドは平静を
そして、また溜め息をつきました。
「眠くて
ユウエリマはただ立っていましたが、イエドを見ていられず、庭を眺めるのでした。
しかし、庭は暗闇に満ちていました。 そして、いつの
部屋の掛け時計に気付いて見ると、もう帰らなければならない時間でした。ユウエリマの祖父のフィサに黙って来たので、
「イエド。また来るから、元気になってよ。……もう帰らないといけないんだ。また会おう、イエド」
ユウエリマは心残りがありましたが、部屋を
ユウエリマは玄関を出ると、空に掛かっている一番星を目に留めました。立ち止まっていると、横から声が聞こえました。
「あんな落ち込み
シノティラが歩み寄って来ました。小さな
「さあ、市街まで送るよ。暗くなったから」
二人は林の中、坂道を黙して歩きました。
しばらく歩いていると、シノティラは独り言のような口調で言いました。
「イエドはあんなだけど、わたしは前向きに居ようと思う。イエドの性格をよく分かっているつもりでね」笑顔でしたが、短く息をつきました。
「あの、病院の先生に、まさか、治らないなんてことは……」ユウエリマは立ち止まり、少し
シノティラは、ユウエリマの前で立ち止まりました。
「それがね、お医者さんは、『今の医術では何もできない。』――このたった一言よ? そのときイエドはあきらめられないって言ったのに、あきらめるしかないような返事だけ! 〝今の医術〟って、その昔より
「そんな……。治せないということですか?」
ユウエリマは、イエドのことを自分のことように思い悩むのでした。――なんて悔しさだろう。シノおばさんとキュンドおじさんに、これまでの成果を見せられない。
シノティラは、ユウエリマに振り返りました。
「まあまあ、ユウちゃん。あまりお医者の一言は信用しなくていい。イエドにも言ったんだけど、聞かなくてね。イエド自身、元気が戻ればなんとかなるんだけどねえ」
シノティラは
「わたしなりに何とかしようと、たくさん調べたけど、専門外だからね。なかなか……難しい」
そして、話しを変えるように言いました。
「ところで、フィサおじいさんはお元気で?」
「……あ、はい」
ユウエリマは、心中ではまだ当惑していましたが、気を取り直して言いました。
「じいさんは
「ああ、元は大役者だからねえ――あっ、一緒にヤイチへ行く気でいらっしゃるのかな?」
「ええ。そうです。もう頼もしくて」ユウエリマは満面の笑みでした。
「本当に元気で、じいさんが叱れば叱るほど、わたしには頼もしく見えます。今日も叱られるかもしれません。帰りが遅くなったので」
「そうだろうねえ。心配なのよ。あなたを一番に思っているから」
「はい。……じいさんは、わたしのことを一番
この言葉を聞いたシノティラは、昔へ戻った気がしました。
フィサの言ったあの言葉が急に思い出されたのでした。
わしがあの子の両親にならんといかん。あの子の
しばらく歩きながら話すうちに、坂道を
先へ歩みだしたユウエリマは、シノティラに振り返りました。
「あの、シノおばさん」
そして一歩、明かりの外へ出ました。
「わたしは励みになると思ったんですが、楽しかった思い出とかを話してみたらどうでしょうか。あと、元気をなくしても、何かのきっかけで――何かの一言で、元気になるかもしれませんから」
ユウエリマの表情は
「そう……。ありがとう、ユウエリマ」シノティラはしんみりと言いました。話題を変えていたものの、やはり昔を思い出していたのでした。
「……では、また来ます。さようなら」
ユウエリマは帰って行きます。しかし、後ろ姿は全く寂しそうではありませんでした。
空には、たくさんの星が輝いていました。