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第63話 鈴鹿と明科

 3学期になり、マイはクラスに復帰した。


 始業式の日、駅で鈴鹿咲希と明科呼春がマイを待っていた。ああ、この2人か。見覚えがあるぞ。


 「ハイ、マイ」


 小さく手を振っている、背の高い方が鈴鹿だ。小学校も中学校も一緒だった。同じクラスになったこともある。ただ、僕はほとんど接触がなかった。小学校の時はツインテールがトレードマークで、マイと同じく活発で年中、日焼けしているような女の子だった。


 今はポニーテールにしているが、相変わらず色が黒いことには変わりがない。少し吊り目なところも変わらない。小学校の頃は騒がしくて近寄りがたかった|(実際に全く近寄らなかった)のに、随分と落ち着いたお姉さんになったなという印象だった。


 「マイちゃん、おはよ」


 背の低い方が明科。丸眼鏡をかけて色白で、髪を肩まで伸ばして文学少女といった風情だ。前髪が長くて陰キャ風なので、こういう女の子は見ていて安心する。ただ、なぜこんな目立たない地味な子が、どちらかといえば活発なマイとつるんでいるのか、よくわからない。手芸つながりかもしれない。


 「おはよ。今日から復活やで」


 マイはニンマリと笑うと、2人に向けて右腕を曲げて力こぶを作ってみせた。


 「サキちゃん、コハルちゃん、よろしくね」


 節目ということで、おばさんもついてきていた。学校で面談があるらしい。


 「おばちゃん、お任せください。この鈴鹿咲希がマイをしっかりお守りしますから」


 鈴鹿は胸を張ってポンと叩いた。


 「あらまあ、頼もしいわ」


 「おばちゃん、コハもサポートするから」


 明科がペコリと頭を下げる。


 「頼むわね、コハルちゃん」


 ……。


 いつもと同じように家から一緒に来たんだけど、僕、もういらないんじゃない?


 「城山! もうあんた一人でマイの面倒見んでもええからな! これからは親友のウチらがマイを支えていくから!」


 突然、鈴鹿に声をかけられてドキッとした。


 「ああ…はい、どうも……」


 なんだかよくわからない返事をしてしまう。


 それにしても、鈴鹿と明科はマイと仲がいいんだな。こんな友達がいるとは知らなかった。明科はおばさんとも親しげに話しているし。自宅に行って、顔を覚えてもらうくらい遊んだことがあるのだろう。


 マイは鈴鹿と話している。過呼吸の発作が出ることがあるので、その時は助けてほしいということを伝えていた。そーなのよとか言いながら、あまり深刻な感じがしない。


 なんか、居場所がないね……。


 電車に乗る。この2人に任せて、明日から僕は一人で学校に行こうかしらん。いや、だけどまた前みたいに、黒沢の刺客が現れたらどうする? 鈴鹿は剣道部で肝が据わっていそうだけど、複数の男子に囲まれてマイを守り切れるか?


 「そりゃそうと、城山は随分と変わったよね。中学時代から比べたら月とすっぽんや」


 また鈴鹿に話しかけられて、ビクッとした。真顔で見つめられて、思わず目をそらす。


 「ああ…そう? そうかな?」


 マイもこっちを見ていた。マイだけに見つめられるのはまだ慣れている。だけど、あまり親しくない女の子にジロジロ見られると恥ずかしいのを通り越して、なんだか悪いことをしたような気がして、もぞもぞする。


 「そうそう。めっちゃ変わったよ。マイもそう思わへん?」


 鈴鹿はマイに振った。矛先が変わって、ホッとする。


 「え? そうかな? 毎日、見てるから、そんな変わった感じせえへんけど」


 「いや、めっちゃ変わったよ。だって、中学の時はヒョロッと背が高くて、なんか巨大なもやしみたいな感じやったのに、今はなんかたくましいもん。顔つきも変わったよ。前はもっとドローンとしてた」


 なんだがひどい言われように思うけど、実際そうだったので反論できない。


 「確かに体つきは変わったよね」


 そこはマイも同意のようだ。


 「きっと、大人になったんだよ。ちょっとカッコよくなったもん」


 明科が割り込んできた。


 え、カッコいい? 女子にカッコいいなんて言われたの、初めてだ。すごくうれしくて、顔がニヤけそうになる。いや、いかんぞ。ここはクールに聞き流さないと。僕はギュッと表情を引き締めた。


 「そうそう。精悍っていうの? 精悍な顔つきになったよね。さすが、マイちゃんの仇を討っただけあるわ〜」


 鈴鹿はヘラッと笑いながら、サラッと怖いことを言った。


 「仇を討った? なんのこと?」


 マイが不思議そうな顔をしている。そうだ。マイは僕が岩出と決闘したことを知らないんだ。


 「知らないの? 城山、話してないの?」


 鈴鹿はキョトンとしている。余計なこと言うなよ。嫌なことを思い出させないように、黙っていたのに。その話をしたら、岩出のことを話さざるを得ないだろ。


 「鈴鹿、言わなくていいよ」


 焦る。冷や汗がドッと吹き出す。


 「サキ、なんのこと?」


 「マイも聞かなくていいから」


 「あ!」


 鈴鹿は何か思いついたように目を見開いて、少し大きな声を上げた。


 「わかった! そういうことなんやな、城山。わかった」


 ニコニコしながらうなずいているが、何がわかったと言うのだろう。


 「後で、あんたがおらへんところで説明しとくわ!」


 いや、そうじゃないだろ!

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