翌日。レンの部屋で一泊した三人は、すぐにマナの所へ向かいトウヤから聞いた事を伝える。終始黙って相槌だけ打つマナと、必死に言葉を投げかける二人。
「って事なんだよマナ」
ようやく話終えると、マナは静かに頷いて見せた。
「なるほどな」
「このままトウヤを返したら危険だよ。ここで預かるとか出来ないの?」
「先生、おれからもお願いします!」
リュウトの無理難題と共に深々と頭を下げるレン。二人の強い思いが伝わるが故に決まっていた答えを返せず、マナは深く溜め息を漏らした。
「何とかしてやる!って言ってやりたいんだが、トウヤの件は一旦施設に帰す事に決まったんだ」
「え!?でもそれじゃ施設の人も危な――」
「向こうがトウヤを探してたんだ」
マナの言葉に二人は返そうとした言葉が出て来ず、開いていた口は俯きながらゆっくりと閉じることしか出来なかった。自分の生徒が落胆する姿を見て、マナもまた静かに目を閉じて平常心を保とうとする。
マナは自分の中で切り替えたのか、僅かに視線を鋭くさせると再び話し始めた。
「二日前に抜け出して帰って来ないから、捜索届を出そうとしてたみてぇなんだ。何より育てる責任も向こうが持ってるしな」
マナの言葉に勝るものが無い三人は、ただジッと話しを聞く事しか出来なかった。それを知っているからかマナは淡々と現実を刃の様に突き付ける。
「それに
「それでも……!」
弱々しくも返したリュウト。なおも食い下がる姿に流石のマナも呆れた表情を浮かべる。
「昨日も言ったがお前はまだ
マナが話してると突然、机を叩く音によってマナの言葉もその場の雰囲気も静寂に変わる。マナがいる机を両手で叩く様に手を置いたリュウトは、眉間に皺を寄せた真っ直ぐな瞳でマナを見たまま言い放つ。
「……だったらなってやるよ。ユウキと同じ上級にでも何でも」
リュウトの言葉を聞いた瞬間、マナは昔の記憶が蘇る。言われたのは自分ではなく当時の師。そしてその師に対して堂々と言い放つ幼い頃のユウキ。
だったら
まだコートも着ていない弟子が発した言葉に、師の口元は僅かに口角が上がっていた。
なぜあの時笑っていたのか。それが何となく理解出来たマナもニヤリと笑みを浮かべる。
「言うじゃねぇか。その言葉、絶対忘れんなよ?」
そう言ったマナは突然立ち上がると、壁に掛けていた黒コートや装備を身に付けていく。何をしたいのか分からないリュウト達は僅かに困惑気味の表情を浮かべた。
「そんじゃ特別に連れてってやるよ」
「どこに?」
「トウヤの帰る施設だ。そこであたしが調べてた事も教えてやる」
車の鍵が付いたキーホルダーを人差し指でクルクルと回しながら、着いて来いと言わんばかりにマナは視線を向ける。三人は言われるがままマナの後を追い部屋を出ると、ビルの駐車場から車に乗り込みトウヤが帰る施設へ進み始めた。
「すまねぇなトウヤ。でも施設の人には適わねぇんだ」
「いえ……わかってますので大丈夫です……」
先程の会話に殆ど混ざる事が無かったトウヤに謝罪するが、その声色に昨日の様な活気は消えていた。マナはハンドルを握り直し、運転に集中しつつもトウヤの方をチラリと視線を向ける。
「ここからは他の奴に内緒何だけどな、施設を襲う悪魔の事はこっちも知ってたんだ」
「え?」
予想しなかった言葉にトウヤだけでなくレンやリュウトもマナの方へ顔を向けた。真っ直ぐと続く道を見つめながら、マナは僅かに眉間に皺を寄せる。
「だが発生場所も不特定だし聞き込みしたくても全滅じゃあどうにもならなかったんだ。何より担当してた
「でもトウヤは生きてるよ?」
マナは顔を歪ませ頭を搔く様な仕草をすると、前を見たまま話し続ける。
「そこが謎なんだ。何で全員死亡になってるか。それで似たような報告書や資料の出処を調べてたって訳だ」
「何かわかったの?」
リュウトの問いにマナは小さく首を振ると、胸ポケットに入れていたタバコを一本咥えて火をつける。その後運転席側の窓を半分程開けると、、副流煙が車内に残る事を防いだ。
そのまま煙を大きく吸い込み、右手の指で挟むと口から離して紫煙を吐く。
「結局わからねぇ。担当の滅殺者も見つからねぇし、警官も地域が違うしな」
「なぁ先生、本当にトウヤを帰して大丈夫なのか?」
レンの質問にマナはタバコを咥えたまま苦い表情を浮かべる。
見慣れたビルが並ぶ街並みも、いつの間にか木々が多くなり都会とは違った風景へと変わっていた。
「向こうがそれ望んでるからな。お、見えてきたぞ。あそこか?トウヤ……ッ!」
やや急な坂を途中まで登ると、道の先に真新しい建物が見えて来た。だが坂を登り切った所でマナは驚いた様子で車を急停止させる。
建物まで数百メートルの位置。そこでは町の住民が野次馬と化し、警官や救急車が緊急で停車した為に一般車で渋滞が起きていた。