レンの知り合いだと言う少年を助けてから約二時間後。
リュウトとレンは、レンの部屋の前で申し訳なさそうに立っていた。その前には、腰に手を当て今にも説教が始まりそうなマナが仁王立ちしている。
二人は僅かに口元が引きつっているマナを見上げる。その顔は微笑を浮かべているが、目だけは今にも雷を落としそうな冷たいものになっていた。
「それで勝手に抜け出した挙句、あの男の子を助けた、と?」
「うん……」
一連の流れを聞き終え、事態を自分の中で整理したマナは大きくため息を漏らしながらやれやれと言いたげに頭を搔く。
「ったく……まぁわかった。事情が事情だから病院じゃなくてこっちで医療班に診てもらったけど大した怪我も異常も無いそうだ」
「助かったよマナ」
リュウトがお礼を言うとマナは首を横に振る。
「いや、見つけられてねぇ私達にも落ち度はあんだ。それにどんな経緯であれ悪魔に襲われた状態で帰す訳にもいかねぇしな。その悪魔もまだ生きてやがるし」
僅かに眉間に皺を寄せ、廊下の窓から見える街を見下ろすマナ。
その目はまるで獲物を探す鳥のように鋭く見えた。
「今回も逃げられたんだ……」
そしてリュウトもまた、件の悪魔に何も出来ず逃げられた事を悔やんでいた。そんなリュウトの姿を見たマナは、さっきまでの鋭い表情を溶かし普段の穏和な顔付きへと戻る。
「でも守ろうと二人で立ち向かったんだろ?そこは褒めてやる」
ただな――。マナはそう言うと二人の肩に手を掛け、真っ直ぐに二人の顔を見つめる。その瞳には、恐怖心が混じった怒りにも心配にも似たものが宿っていた。
「お前達はまだ
普段なら怒鳴る勢いの言葉を、ゆっくりと言い聞かせる様に語るマナ。何を伝えたかったのか、理解が出来た二人は無言で頷く事しか出来なかった。
二人の姿を見たマナは最後に頭を優しく撫でると、立ち上がり背を向けてその場を後にする。
「よし。そんじゃ検査が終わったら医療班出てくっから、その子の事頼むぜ。レン知り合いなんだろ?」
「あぁ任せといてくれ」
「よろしくな。アタシはまた調べ物に行くから、何か起こ……る前に連絡しろよ!!」
去り際に、マナは最後にもう一押しと言わんばかりに声を荒らげる。
さっきとは違いいつも通りの注意に二人は少し安堵しながら、真剣な表情で「はい」と返した。
その数分後、出てきた滅殺者の医療班から面会可能の知らせを受けると、少年が居るレンの部屋へ入る。部屋の中心には簡易的に作られたベッドの上で少年が上半身を起こしたままこちらを見つめていた。
「ようトウヤだろ?おれの事覚えてるか?」
レンにトウヤと呼ばれた少年は、レンの顔を見るなり目を開き顔を近付ける。
「まさか……レン君!?」
「覚えててくれたか!それとレンでいいぜ。そんでこっちはリュウト、最近友達になったんだ」
レンの紹介を受けてリュウトはトウヤのベッドへ歩み寄る。
だが二人の顔は何故か引き攣りたどたどしい雰囲気が流れ始めた。
「どうしたんだよ、あれ?お前ら人見知りだったっけ?」
「まぁ、ね。よろしく、トウヤ……」
「こ、こちらこそ……よろしく」
どちらも初対面に弱いのか、遠慮がちな軽い握手を交わす二人。だがトウヤの手に触れた瞬間その思いは一変する。リュウトは何かを感じ取り僅かに真剣な眼差しへ変わった。
しかしそんな事を知らないレンは、交わされた握手が離れるのを確認すると久しぶりの友人へ視線を向けると。
「んでお前、一体何があったんだよ」
「それは――」
握手の時は引きつっていた笑顔とは言え、苦手なだけで久しぶりの再会は喜んでいたトウヤ。レンが事情を聞いた途端、答えにくそうに口篭りながら俯く。
トウヤには気付かれない程度に小さくため息を漏らすと、レンは意を決した様に眉間に皺を寄せて声に力を込めた。
「ここはあのバケモンを倒す専門の人がいる。それにおれとリュウトもその見習いみたいなもんだ。絶対力になれるから、話してくれねぇか?」
「……わかった」
トウヤは顔を上げてレンの顔を見つめる。その目に迷いは無く、ふと昔の幼い頃のレンの面影と重なる様な感覚を覚えた。昔から不器用ながら真っ直ぐな少年。
その心を持ったまま成長した友達の姿に安心感を感じると、トウヤはゆっくりと深呼吸して口を開いた。
「あの化け物にずっと追われてるんだ」
助けたい思いもある。その為の覚悟もあった。
だがトウヤの言葉を目の前にして、二人は動揺を隠しきれなかった。