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第24話  ひとつの結末

       ☆  ここまでのあらすじ  ☆


高校生の伊川一博は、釈光寺組組長である、実父釈光寺琢己の屋敷を訪ねる。


琢己の屋敷で暮らし始めた一博は、ある晩、奥座敷で、龍と麒麟がむつみ合う姿を目撃し、自分がゲイだと自覚する。


翌夕、若頭補佐の日向潤と引き合わされるが、麒麟の入れ墨を背負った男だった。

一博は、軽い気持ちで潤を誘うが、拒絶され、激怒する。


潤は「わたしは、オヤジさんに若のことを任せられた以上、命を投げ出してでもお守りします。それだけはわかってやってください」との言葉を残して立ち去る。



大学を卒業した一博は、琢己不在時に、カチコミを決行して重傷を負う。


退院した一博は「一度だけ」という約束で、琢己と関係を持つ。


一博と張り合う長男祐樹が、関西の組織と手を結び、一博は罠に落ちるが、潤に救われる。


再び潤に拒絶され、潤の琢己への思いを再確認する。


英二が、一博をかばって刺され、意識不明に陥る。


琢己と再び関係を持ってしまった一博は、琢己を疎ましく思うようになる。


義父に呼び出された一博は、伊川正雄が中国マフィアのボスミスター・Kで、潤はその配下だったと知る。


潤の手で琢己が暗殺され、一博は組長となる。


英二と関係を持った一博は、潤を遠ざける。


英二に一緒に逃げようと切り出され、嘘をついて追い出す。


潤に呼び出された一博は、暴力で屈服させられ、レイプされる。

熱情を打ち明けられた一博は、逆に冷めていく。


ミスター・Kの怒りを買った一博は、激しいリンチを受け、監禁される。


英二が救いに来るが、英二は、別の場所に軟禁されている潤の策略で動いていた。


ミスター・Kから、麒麟の入れ墨が彫られた背中の皮が送りつけられる。



        ☆   本文   ☆



 一博は誰にも知られぬよう屋敷をあとにした。

 真夏にロングコートは目立つ格好だったがやむをえない。

 エナメルのコートの下にはさまざまな武器が隠してあった。


 愛車のアルファロメオGTVなら、自動小銃も積み込めたが、ガレージに行けば、組の誰かに見気づかれる恐れがあった。

 軽装備での出陣だが、手榴弾まで用意した。


 レンタカーのクラウン2000スーパーDXを転がしながら、一博は派手なラストシーンを思い描いた。


 ド派手に殺しまくって、自分も蜂の巣になるとか……。

 とにかく最後は壮絶にいきたいよな。


 一博は自らの幕引きが、男らしく華々しくあることばかり考えていた。




 倉庫周辺は静まり返っていた。

 暗い波が岸壁に打ち寄せる音だけが、鼓膜に響いてくる。


 乾いた笑いがこみ上げてきた。


 ここですべてを清算する。

 自分でもよくわからない自分の感情にも……。


 一博はひどく爽快な気分だった。


 この生に自分で決着をつけて、潤のところへ行こう。

 どのみち二人が行くのは地獄だ。

 地獄でまたコンビを組んで悪さをしよう。


 銃を両手に握り締めた一博は、ゆっくりと倉庫の扉を開いた。



「!」


 薄明るい光の中に立っていたのはミスター・Kと……。



 杜月笙だった。


「じゅ、潤?」

「若」

 潤はゆっくりとした足取りで歩み寄ってくると、一博の体を静かに抱きしめた。

 一博も潤をしっかり抱く。


「若。わたしは若を救うために命をかけました。それは、初めて会ったとき、あなたに誓ったことです。そして、若も……わたしの復讐ために命を捨てようとしてくださった」

 潤が優しく微笑みかける。


 死を覚悟した笑みだと、一博は直感した。


「二人まとめて、ゆっくり料理するつもりだな。そう簡単にいくか。潤と一緒に生き延びてやる」

 マカレフの銃口をミスター・Kに向け、潤を庇いながら身構えた。


「若。香主はそんなに狭量なおかたじゃありません」

 潤こと月笙は、一博の腕を優しくつかんで銃を下げさせた。


「え?」


「あの後、わたしの企みは露見し、死を覚悟しました。香主に、どんな罰も受けますから、若だけは助けてくださいと泣いてすがりました。あなたに一方的に懸想したわたしが悪い。若に罪はないのですから」

 月笙は目を瞬かせ、言葉を続けた。


「香主は寛大でした。借りは、二人のこの先の働きで返すようにとおっしゃいました。けれど、わたしは、きちんと落とし前をつけなければ、許されないこともわかっていました」

 月笙はそこで息を継いだ。


「わたしはわびのしるしとして、自分の刺青を差し出すと申し上げました。それで若にはお咎めがないようにと……」


 一博は潤の痛みを思った。

 胸が熱くなる。


「潤」

 一博は潤を力一杯、抱きしめた。

 潤が痛みに顔をしかめる。


 緊張の糸がぷつりと切れ、空気の抜けた風船のように脱力した一博を、潤がしっかり抱きとめてくれる。


「一博……」

 潤はこのとき一博の全てを得た。


 ……と実感したに違いなかった。





 二人の絆はミスター・K公認になり、伊川一博と日向潤は、極道としての日常に戻った。

 ビジネスに支障をきたさぬという条件のもとで。


 潤は、献身的に仕え、万事が万事、一博の影であり奴隷だ。


 潤は、自分の身を文字通り削って一博を救い、同時に一博に深い愛の忠誠を誓ってくれた。

 一博はそんな潤との関係がまんざらでもなかった。


 ミスター・Kを交えた3Pプレイも楽しんでいる。

 だがミスター・Kは一博にドラッグを使わなくなった。

 それは、ミスター・Kが、一博を、セックス目的の人形としてでなく、ビジネス上でも重要視し始めたことを意味した。




 英二は、母房枝のもとに戻って、その後二度と釈光寺の門をくぐることはなかった。


 二年後、英二は同じ敬愛病院勤務の臨床検査技師と、身分相応のささやかな結婚式を挙げた。

 ミスター・Kも、伊川正雄の仮面を被って出席した。


 一博は列席しなかった。


 だが、最高級の家電製品一式から、車に至るまで、新居である1DKのマンションに予告もなく送りつけ、グアムへの新婚旅行から帰った英二夫婦を驚かせた。

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