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第28話青い鳥居の所でお喋りをしながら河童たちを待っていた

 昼。

 春愁と炎陽は青い鳥居の所で夕紅葉とお喋りをしながら河童たちを待っていた。あの鳥居の向こう側に、自分から行く気はない。

 お喋りの内容は昼食についてである。河童だし、お魚がいいかな。きゅうりは外せないよね。基本的にキツネは雑食なので、美味しければ文句はないのだ。美味しくなかったら勿論文句を言うけれど。


「お待たせしました」


 青い鳥居から、四人の河童が出てくる。外見的には人の似姿を取っているから、人間なんだけれど。

 苔むした緑色の小雪、緑色の澄清、黄色に近い黄緑色の晩翠、赤に近いピンク色の花野。河童に戻った時の肌の色と同じ色の作務衣を身にまとう彼らは、誰が誰だかわかり易くていい。

 裏を返せば、服を取り換えられると途端に誰だか分からなくなりそうだけれど。


「それほど待っていませんよ。そもそもお昼に、としかお約束していませんし」

「時間決めてなかったもんね」


 けらけらとキツネたちは笑う。キツネにとってはそんなもんだ。


「それよりお昼なんにします? 食べたいものあれば言って下さい」


 経費なので。

 豪遊は出来ないけれど、河童はキツネと違って真面目なので、そんなことは言わないだろう。お高い焼き肉食べ放題とか。


「ラーメンが、食べたいです!」

「美味しいところあります?」

「お任せください」


 ものすごく勇気を振り絞って、花野は発言をしたが。そんなもの、キツネには気が付かれない。もはやさんにんはラーメンの話題を繰り広げている。塩味噌醤油とんこつ背油カタメ。花野にはもはや、さんにんのキツネが唱えているのは呪文に聞こえた。


「……ご案内しますね」


 何味にしますかと振ってみたけれど、河童は圧倒されてしまっていたので、夕紅葉は考えるのをやめた。春愁と炎陽は好きにするだろう。

 てくてくと歩いた先のラーメン屋でさんにんのキツネはよにんの河童にラーメンの食べ方を教え、何なら券売機での買い方とか味の違いとかそういうところからスタートし、仲良くラーメンを腹に収めたのだった。ちなみに、亀井も呼んで一緒に食べた。

 いくら何でもラーメン屋で今後の会議をするのははばかられたので、場所を神社の境内に作られたキツネの隠し里にある宿坊へと移した。ここの食堂なら問題は何もない。


「それで午前中練習してみて、どうでしたか」


 我ながら質問がふんわりしているな、と思いつつ、春愁が口火を切った。一応カメラは回してある。午前の練習の成果を聞いて、午後に挑戦するかしないかを決めるのだ。

 何なら数日練習すれば行けそう、という手ごたえも、河童にはあるんじゃないかなって、キツネは軽く考えている。だって河童って、水妖の親玉みたいなところがあるし。知名度的に。


「んー……」


 小雪は少し、歯切れが悪い。彼がこんなに悩んでいる、ということに、春愁は少し驚いた。


「多分、ですが。滝登り自体は出来るだろうな、という手ごたえはあります」


 そこで言葉を一旦切って、小雪は河童たちを見回した。晩翠も澄清も花野も、それに頷く。


「ただそれがいつになるか、といわれると、少し自信がないですね」


 昨日鯉から竜に成った寒雨は、八度目の挑戦でついになったのであるから、まだ一度も挑戦していない河童が成功しなかったところで、それはそう、という感想しか出ないだろうな、と、春愁は思う。が、口にはまだしない。


「じゃあ今日の午後は」


 だから春愁は現実的な話だけを詰めておく。真面目な河童たちは、ちゃんと教えてくれるだろうし。前払いしたからね、相撲大会。


「ちょっと練習風景の撮影をさせて貰えたら、と思います。水中カメラの設定も終わったので、水中から練習風景撮ってみたり、鯉の方で背中辺りに括り付けて滝登ってくれそうな方を探して貰っても?」

「聞いてみますね」


 澄清が頷いた。さっきラーメン食べてる時の話ぶりだと、澄清が一番鯉と仲良くなっていそうだった。


「それで、今日の夕方の回、一応河童の皆さん試験に挑んでもらってよろしいですか? 失敗前提で」

「構いませんが?」


 晩翠が首をかしげる。成功前提ではなく、失敗前提というところが引っかかるようだった。それはまあ、試験を受ける側としてはそういう気分にもなるだろう。


「成功したらしたで構いません。その方がありがたいです。

 河童の皆さんですら一日では成功しない、人間が挑もうとするな、というメッセージになるかなって」

「ああ」

「それは確かに」

「そういうお話でしたね」

「それなら確かに成功するまで毎日、って話になりますね」


 どうやら皆さん納得してくれたらしい。

 昨日撮影している時は絶望じみた顔をしていたのに、今日の午前中練習してみただけでこれである。

 やはり河童にとっては、そんなに難しくもないのか。聞いてみた方がいいな?


「ちょっと確認なんですが」

「はい」

「もしかして滝登り、河童にはそんなに難しくないです?」

「難しいです」


 小雪が即答する。


「当然なんですけど、河童のサイズじゃなくて鯉のサイズなので、川幅もそうですけれど深度も思ったより浅めなので。滝から滝への移動で気を付けないと怪我しそうですね」

「人間無理じゃないですか」

「無理だと思います」

「だから人間向けに作ってないんですよー」


 夕紅葉の嘆きに、まあそう、と誰もが思う。だからこその河童への依頼であり、河童の小雪の言葉なのである。


「まあ、その生の情報を頂けるだけでありがたいです」

「そもそも希望したとして、人間が挑戦できるんですか?」

「鯉に転生して出直してきてくださいとこれまではお伝えしてますね」

「あ、すでにいたんですね」

「そしたら、いつだったかな。翌日とかって近々ではなくですね。鯉の着ぐるみ着てきやがったので天狗さんにお願いして怒って貰いました」

「うん、怒られろ」


 思わずといった風に、炎陽が呟き、亀井も頷く。鯉のためのダンジョンで、鯉の仮装をしてきて入れろは、それは違う。


「じゃあまあ、ええと」


 多分その馬鹿が今回の依頼主だろうなとあたりを付けた春愁は、話をまとめにかかる。カットはしないが。


「河童の皆さんには午後も練習していただいて」

「はい」

「こちらとしては練習風景の撮影に伺いますので、それに協力していただいて」

「任せて下さい」

「で、夕方頃に一回、全員に試験を受けて貰う、という形でよいですかね。試験って何かルールあります?」

「今回は正式な試験じゃないので問題はないと思います」

「じゃあ、鯉の皆さんは参加できない、でいいですね」

「そうなりますね」


 夕紅葉に確認を取る。

 やっぱり何か、神様からか神使の方々のアクションがあって竜に成るらしい。その辺りは放映するつもりはない。

 何故かと言えば、神使の方が認めれば人間だって竜に成れる! とか言い出しかねないからだ。だから成れないんだよ、人間は竜に進化しないの!

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