それは、一通の投書から始まった。
とある地方の、滝を内包するとあるダンジョンがクリアできない。というものだった。
「ハイハイ今度は何ですか」
現在配信担当キツネの頭になっている
今日の宇迦之御魂神のキツネの面は、前回と違って赤色だった。
『配信の依頼が来てるの』
「今日のお面、この間作成配信してるヒト見ましたよ。そのヒトからですか?」
『これはお願いのお面だそうなの。なんでも、クリアできないダンジョンがあるから、攻略動画を撮ってほしいそうで』
はあ、と春愁は頷いた。
宇迦之御魂神に直談判とは、すごい事をするなと考えた。まあ、キツネの配信にコメントしたところで流れてしまえばキツネは気が付かないから。キツネのお面とともに投書をするのが確実かもしれない。今後それが流行すると面倒くさいな、とは思うけれど。
「どこのダンジョンですかね」
『鯉の滝登りダンジョンですって』
鯉の滝登りは、中国は黄河由来の言葉である。激流を鯉が登り、登りきると龍に転じることが出来る、という伝説が主体になっている。まあ実際に鯉が竜に成った訳ではなくてそれくらいの勢いで成り上がったものがいた、という話なのだけれど。
春愁は額をぺちんと叩いた。あれか。
話には聞いている。さしもの天狗も眉間を揉んでいた。多分、人間はクリアできない。というよりどう考えても、クリアさせる気がない。でもまあ、リクエストしたくなる気持ちもわかるし、春愁だってあのダンジョンに興味がない訳ではないので、受けることにした。
「出張費出ます?」
『交通費とかは出してあげるけれど、豪遊は駄目』
ちゃんと釘をさしてくるのを忘れない神様だった。
さて。
春愁は考える。
とりあえずは、鯉の滝登りダンジョンの近隣のキツネに連絡を取るところからだろう。どういう意図でこのダンジョンを作ったのかと、どういう意図でこのダンジョンに許可を出したのか、だ。いやそうだよ。なんで許可出てるんだよ。
そこを確認しない事には、先には進めない、というのが、春愁の出した結論であった。