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第15話 奥出雲に、その神社はあった。

 奥出雲に、その神社はあった。

 八岐大蛇やまたのおろちを祀る神社は各地にあるが、その大蛇は奥出雲にあるとある神社を己の住みかと定めた。なんの住みかか、と問われれば、ダンジョンである。ダンジョン。神々から作るようにと言われた、あれである。


『ようするに、だ』

『信心が集まればよいのであろう?』

『つまり誰もが訪れたくなるようにする、ということだな』

『ならば答えは一つよ』

『いやあ、我々らしさも出さねばならないと言っても、なあ』


 げらげらげらと、八つの首を持つ大蛇は笑った。

 というわけで、八岐大蛇は同じ境内に生息しているキツネの清涼せいりょうに相談した。もう構想は練ってある。一人ではないのだ。頭は八つあるのだ。

 ただ。

 人の手を借りないと、実現が不可だというだけだ。


「ではまずダンジョン作りましょう。アスレチックのダンジョンを作って。で、それから酒屋さんにお話を持って行きましょう」

『そうなるよな』

『しかしなあ』

『こんな山奥まで配達に来てくれるかね』


 キョトンとした顔で、清涼は首をひねった。確かにこの社は山の上にあると言っていい。まず長い長い階段を登る必要があるからだ。近所に酒屋はない。


「階段の下に、露店を出して貰えばいいじゃないですか」

『出して貰えるかねぇ』

「それなりの売り上げになるころには、出して貰えるようになると思いますよ」


 そのそれなりの売り上げになるころ、が、問題だというのに。


「というわけでまずダンジョンを作ります。ダンジョンが出来上がった頃、天狗をお呼びして、動画を撮ります」

『ああ、あれか』

『まあ確かに内容分かっても困らんわな』

「はい。何ならアスレチック自体は簡単で構いません」

『構わんのかの?』

「かまいません。簡単に名剣を手に入れることが出来る、ということが大事なのです」


 人間という生き物は、こちらが思っているほど難題が好きではない。簡単に名剣が手に入るのであれば、全力を注ぐだろう。


『お主がそういうならそうだろうがな』

『いやまあ我らも酒が飲めればそれでいいかと思っているから、同じでは?』

『……同じだわな』

『利害の一致! 利害の一致と言い換えるのだ!』

「あとはそうですね」


 さらりと、清涼は大蛇たちのやり取りを受け流した。キツネは兄弟も家族も多いから、大人数のやり取りに慣れている。話を進めたいときは、ぶった切って進めてしまうに限るのだ。俺の話を聞け。


「SNSで、本日作った剣、を、アップしていきましょう」

『そんなことしてよいのか』

「良いと思います。まあ、何と言いますか。当たりくじの内容は伝えておくべきではないか、と」


 そうして。

 着々と準備は整っていった。

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