目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第9話 神々の作成したダンジョンと、

 神々の作成したダンジョンと、キツネと天狗の冒険者ギルド、命名口入屋が稼働を開始して、二年。青白橡あおしろつるばみ達のような地元の小さな神社であっても、地元の商工会や婦人会、青年会、在野のアーティストなどと組んで、ダンジョンを運営していた。運営出来ていた。

 青白橡のダンジョンに出る敵はもっぱら鳥である。最初は三階層だったダンジョンは、現在は五階層に拡大していた。

 一階に出るのは大体雀。五羽寄り集まると大雀になって強くなる。雀を攻撃するのはちょっと……などと言っていると容赦なくついばまれた。そうして頭の上に乗られて勝利宣言をされるのだ。可愛いがちょっとイラっとする仕様となっている。発案者は雀たちである。

 ちなみに二階がさぎ、三階がアヒル、四階がカモである。カラスという案もあったし、近所のカラスたちも大いに乗り気であったけれど、青白橡が頼み込んで辞めて貰った。不敬な気がしてならない。別に三本足じゃないからいいじゃないかとカラスたちは言うが、そういう話ではないのだ。

 二階のさぎは、雀に比べると格段に大きいため、浪人たちは戸惑いを見せた。それが分かっているものだから、さぎたちはその翼を大きく広げて威嚇する。

 そうしてさぎたちの大きさに慣れた浪人たちが次に出会うのがアヒルで、その次がカモである。

 それぞれのフロアでの動きは、それぞれのフロアの鳥たちに一任されている。彼ら彼女らは四階の主である烏天狗とそれからそれぞれのフロアにいるフクロウたちと相談し、浪人たちを翻弄していた。あくまでも目的は、翻弄である。

ちなみに。鳥たちは一定のダメージを受けるときらきらとなんかいい感じのエフェクトが舞ってその場から退場するが、死んではいない。青白橡は得た信心のほとんどを、ダンジョン内で誰も怪我しないように、とそちらに利用した。安心安全なダンジョンである。

 もちろん、そうじゃなく死にかけるようなひりつくダンジョンも日本のどこかにはあるが、そこに入ることを許されるのは簡単なことではない。

 さてそれぞれのフロアの中心には広場があって、そこには一本の大きいナギの木があった。そのナギの木には賢者のフクロウが一羽住んでいて、冒険者、こちらは命名浪人の相談に乗ってくれる。相談に乗ってもらうには各フロアで鳥たちが落とす羽が必要だった。


『それは三階にいるアヒルの羽だな。三階のフクロウの所に持って行くといい』


 と言って、フロアが違うと受け取ってくれない。フクロウによって得意分野も違うため、浪人たちは相談に乗ってほしいフロアを周回する必要があった。

 最下層のボス部屋にいるのはカラス天狗である。


「踏み込みが甘い!」

「もっと腰を落とせ」

「武器の柄はしっかりと握れ……そうしないからこうやって取り落とすことになる!」


 一撃貰い、一撃を入れ。その都度カラス天狗は浪人たちに助言を吐いた。さしものカラス天狗でも、目の前の戦士たちに注意を払っていて後ろまでは見ていないだろうと呪文の詠唱を短縮した魔術師に対して。


「詠唱はしっかり全文! 違う効果が出るぞ!」


 と注意を飛ばす余裕すら見せた。

 何故魔法が使えるのかって? あ、キツネが説明いたしますね。めちゃくちゃ永くなるんですけど、まずあれは正確には魔法じゃなくてですね……え、今は良い? そうですか。ではまた後程。

 青白橡のダンジョンは、盛況である。入り口の所ではキツネたちがちゃんと順番を守らせている。

 客のほとんどは近隣の浪人志望の子供たちだ。だから人の出入りは放課後から夕方まで。後は学校が休みの土日。とはいえ中学を卒業しないと口入屋で手形を発行してもらえないので、人間たちの言う子供は出入りが出来ない。

 青白橡や天狗、キツネにしてみれば、高校生でも十分に子供なのだけれど。

 さてカラス天狗を倒すというかカラス天狗に認められると宝箱が現れる。宮司の子供たちは洋風の宝箱を求めたが口入屋に浪人と来ているので、千両箱やつづらにした。つづらが大人気である。中身ではなく、外側が。

 舌切り雀のあれであるもので。

 青白橡のダンジョンにおいて、ここから出てくるものははずれが鳥の羽。どこでも好きなフロアで一度だけ相談に乗って貰える、フクロウの羽である。

 当たりが近所の組紐作家さんの作ったアクセサリーだ。青白橡の力がちょっとだけ込められていて、本当にちょっとだけ防御力が上がる。

 ちなみに一番ウケたのは、近所の定食屋さんの食券五枚つづり。年末年始に福袋を入れたこともある。近所の主婦の方が浪人デビューをした。意外なことに才能があって、現在キツネと天狗に猛烈アピールをされている。


 さて。

 そんなこんなで日本にも冒険者ギルドたる口入屋が出来て、冒険者に該当する浪人の育成も順調であった。戦う意思を持つものであれば、福袋が目当てでも、食券が目当てであっても天狗たちに育てられた。最低限の動きが出来なければ怪我をしてしまう為、手形を得るためには天狗の研修を受けることを必須にしていた。ちなみに、それなりの数が研修を突破できていない。

 各地の神々への信心も増えた。これだけ目に見えた恩恵があるのだから、それも当然である。そうすると、弱い神である青白橡も、その姿を人々の前に現せるようになった。例大祭で得た信心で、ぎりぎり新しい着物おべべを誂えていた頃が嘘のようである。

 と、あれば。

 有名どころの天津神や国津神なども、同じように。顕現することが出来るようになり、その手に武器を握れるようになり。


『おーう、邪魔するぜ』


 今日、青白橡の神社に、有名じんが訪れた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?