支度が整いましてございます。
六曜が一人、アーベルにそう声をかけられて、魔王は目を覚ました。今日もまた玉座で目を覚まし、目の前には六曜が揃って頭を垂れている。
五つ目のアーベルが顔を上げ、立ち上がる。それに合わせるように、他のもの達も頭を上げた。こちらは、跪いたままである。
「これより、彼の地――オーケシュトレームと名付けました世界へ、最後のダンジョンを作ります」
「そうか、ついに最後か」
「はい。オーケシュトレームには四つの大陸と一つの大きな島、それから小さき島々があります。その四つの大陸と一つの島にこれまではダンジョンを作成して参りましたが、これから作りますのは、その、大陸のそばにある島になります」
「何故と問うても?」
「無論でございます」
魔王の問いに、アーベルは大きく頷いた。
「大陸に作ると、多くの者共がやってくるでしょう。現時点で、多くの者共がやってきております。そのおかげで、こうして我らは戻れたのですが」
それは諸刃の剣である。得られるものも多いが、あちらが得るものも多いのだ。無論、ダンジョンはそのように設計してある。ダンジョンに潜る彼らが何も得られなければ、そこに人はやって来ない。
もちろん誰もやって来ないような、森深いところに作ったダンジョンもある。そういうところは、静かに、息長く、深化していく。それでも良いといえばよいのだが、それでは時間がかかり過ぎるのだ。闇の力を、集めるための時間が。
ゆえに、大陸に近しい島に魔王の居城でもあるダンジョンを作る。近しいから人は来る。なにがしか、移動手段もあるだろう。島の原住民もダンジョンに来るだろう。大陸のそこかしこにダンジョンが出来ていることは、島の住民たちだって交易があれば知っているだろう。しかし、しかしだ。
島なのだ。
大陸よりも、人材は豊富ではなかろう。
もっともそれは、ある意味正しかった。
その島にはこれまでアーベルの作ったダンジョンはなく、アーベルの作ったダンジョン攻略のノウハウを島の住人は持っていなかった。
ただそれは。あくまでも。
住人、の、話であった。