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第7話 神々はそれからアーロンにテレビでよくやっている

 神々はそれからアーロンにテレビでよくやっているアメリカ映画に出てくるハンバーガーやらボックスに入っている持ち帰りの中華やらアーロンおすすめの甘いカフェラテなんかを供えて貰って帰路についた。それなりに満足である。ごくごく稀に発生した海外出張なのである。これくらいの役得はあってもよかろうというのが三柱の神々の感想であるが、アーロンは本当に供えていいのか最後まで首をひねっていた。

 ちなみにちゃっかり、ジョージも一緒になって飲み食いしている。

 現物の購入はアーロンの分だけである。それをジョージの指示に従って簡易に祭壇を作り、そう。テーブルの左右にランプを置いて……キャンプ用のランタンでいい。で、ええと。お皿を、足つきだといいけどない? じゃあ普通の白いお皿でいいや。新しいのが最高だけど、無いなら使い慣れた奴でいいよ。それを置いて、それの上に買ってきてくれたものを供えて、供えましたよって文言を……うん、ちゃんとしてなくていい。アーロンが心を込めてくれれば、それは祝詞のりとになるから。


 彼のダンジョンは自然発生したものではなく、何らかの意図をもって誰かが作り出したものである。現状日本にまだできていないのは偶然以外の何物でもないだろう。もしくは、単に大陸からダンジョンを作り出しただけかもしれないが。

 それであれば早晩、この国にもできるだろう。

 というのが、報告を受けるために急遽集まった天津神と国津神の重鎮たちの感想であった。


『あちらがそのつもりなら、こちらも迎え撃たねば失礼というものよの』

『そうなりますなぁ』

『人間に儀式としてさせますか』

『いやいや我らが気が付いたのだから、我等の主導でも問題あるまい』


 そうと決まれば話は早い。決まるまでが長い場合もあるが、早い場合は早い。

 神々に呼び出されたのはキツネの一族と、天狗の一族であった。


「拝命いたします」

「仕ります」


 双方に下された命令はとても簡単で、俗に言う冒険者ギルドの作成と運営である。ダンジョン自体は、あちらさんが日本に作る前に神社の境内に作成する。すべての小さな神社にもだ。小さい神社であれば小さいダンジョンで構わない。

 人が来て、信心を多く神社に落とせば、それだけその神は強くなるのだ。


 青白橡あおしろつるばみは、近所の国津神様からの通達に瞬いた。瞬いた。瞬いた。

 宮司の子供たちはニュース映像で見るダンジョンに興味津々で、日本にも出来ないのかと青白橡に聞いてくる。青白橡の今の宮司は声を聴くだけだが、その子供三人の内長男は青白橡を見れて会話が出来て、長女は声が聞こえた。残念なことに次男は青白橡を信じていなかった。


『どんなダンジョンがいいかの』


 宮司は大人だから、子供たちにそんな危ないことをさせないで下さいと言うだろう。このダンジョンに潜ることが出来る人員は天狗が育てるし、キツネが恐らくダンジョンの管理をしてくれるだろう。だがダンジョンを作るのは青白橡で、報酬なんかも考えなければいけないのも青白橡だ。

 近所に住まう尾花おばな青朽葉あおくちばと一緒に、頭をひねる。首もひねる。

 問題なのはこの一文、出来るだけ地元の特産品を使え。だ。


『門前町で取り扱いのあるものを、と言われてもなぁ』

『門前町があるような大きな神社ばかりではないからなあ』

『多分、どうすればいいのか悩むだろうから、という配慮なのだろうけれど』


 三柱の神はうーんとうなるしかない。

 ここは農村ではない。住宅街だ。特にこれといった産業もない。工場があるわけでもないし、伝統芸能があるわけでもない。

 もうちょっと東に行けば牧場があるけれど、それは三柱の管轄ではなくて、他の神様の管轄だ。


「経験値だよ、経験値! 経験値が美味しいやつ!」

「そうそう。いいアイテムがあるのと、いい経験値が貰えるのが魅力的だよね!」


『そうはいうてもの』

『けいけんち。けいけんちとはなんぞ』

『どうやれば、美味しくなるんかのう』


 この三柱の神々だけではなく、各地で色々な神々がしばらく首をひねり続けることになった。

 いや今はまだ人間にダンジョンを作ることを言えないのだから、ドロップアイテム準備するのは難しい。商工会に話を通すの? どうやって? そもそも商工会に、神々の声を聞ける人いなくないか?

 その一方で着々と、キツネと天狗は準備を整えていった。外国と物語を手本に、体系を整えていく。戦い方を教えるのは天狗が。神社の境内に出来るダンジョンの受付兼見張りはキツネが行う。勝手に入らせはしない。死なれたら困るので。

 アメリカに行ってきた神々が現地の神官から聞いた話では、最初の頃は無秩序で、それぞれが思い思いにヒーローになろうとした結果、事故が多発したという。もう全部ひっくるめて求肥ぎゅうひあたりに包んで、美味しくされて出力された言葉が事故、なのだろう。

 それを踏まえて、ここ日本に作成されることとなったダンジョンには、色々と制限を設けることにしたのだった。

 どんな小さな神社であっても、境内かもしくは近隣にキツネの社があった。青白橡の住む神社も、ちょっと行ったところにキツネのお社があったので、相談に行った。手土産は、宮司の子供たちに買ってきてもらったお揚げだ。


「そうですねぇ。とりあえず作ってみたらいかがです」

『とりあえず?』

「そうですそうです。作って運用してみないと、どうしていいのか分からないでしょう。とりあえず三階層くらいで、青白橡様は元は鳥だったのですから、近隣の鳥に声をかけていただいて」

『なるほどなるほど。それが特色を出す、ということなのだな』

「そうですそうです。教練場にすると天狗に言って、カラス天狗でも借りて。三階をボス部屋にして、そこに陣取って貰えばよろしいのです」

『お詳しいですの』

「そりゃあもう、勉強しましたから」


 キツネに相談をした結果、青白橡のダンジョンは出来上がった。青白橡から話を聞いて、尾花と青朽葉もキツネに相談をした。キツネは他のダンジョンとの調整もして、その上で的確に相談に乗ってくれたという。

 尾花の所のダンジョンは鼠の巣穴をモチーフに、多くのネズミと戦うのがメインとなった。ネズミの子供たちもノリノリで、背を向けてお尻を叩くような挑発行為をしてくるという。冒険者検め浪人と名付けられた彼らは、数の暴力を目の当たりとすることになるだろう。

 青朽葉の所のダンジョンは反対に、トカゲを探す、のが主目的のダンジョンとなった。ダンジョン内に散らばった保護色のトカゲたちを探して見つけて、スタンプカードにハンコを押してもらう。百二十個集めると、景品と交換できる形だそうだ。

 三か所合わせて、初心者鍛錬用にすればよいと、近所のキツネは供えて貰った油揚げを齧りながらほくほくしていたという。

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