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第6話 ジョージにはアーロンがいて、

 ジョージにはアーロンがいて、アーロンはジョージに救われたと思っている。皆が見えないと言っているものが見える自分は狂っていると思っていたけれど、それは別に狂っていないとジョージは言ってくれたし、何なら日本にもアメリカにも実はそこそこ見える人はいると教えてくれた。けれど沢山はいないから、そういう両親の元で育っていないと、どうすればいいか分からないだけだと、ジョージはアーロンに教えた。

 それからジョージはアーロンがダンジョンに行くのを止めなかったし、ほら、今日になったらジャパンの神様を三人……三柱? もご案内することになった! とてもクールだ!

 アーロンから見てジョージは、どこにでもいるアジア系の子供だ。であったころはもっと貧相だったけれど、アーロンと一緒にいるようになったからか、今はその辺にいる子供と大差がない。キャラクターものの少し薄汚れたシャツと、それからジーンズにスニーカー。日本からはるばるやってきた神々と比べたら見劣りするかもしれないが、それでもアーロンにとってとても大切な神様だ。

 それに日本からやってきた神々は、別にジョージを虐げたりはしなかった。馬鹿にするでもなく、下に見るでもなく。いや下には見ているのだけれど、それは彼らの地位が神々の中では上位なので、必然的にジョージの地位が下というだけだ。

 彼らはジョージをちゃんと神様として扱っている。アーロンは、それだけでとても嬉しい。


『君はダンジョンに潜っているんだっけ』

「はい、何度か。ギルドにも所属しているクレリックです」

『マジか。ゲームかコミックの世界じゃないか』


 猿田彦も角代神も驚きを隠さない。


「いや、管理しないと危ないからですよ。管理してるのは国でも地域でもなくて、完全にボランティアですけどね。勝手にそれっぽくギルドって名乗ってるんですよ」

『ああなるほど、模しているのか』

「そうですそうです」


 であればそれは儀式になる。

 神々は視線だけでそれを確認したが、人間であるアーロンには告げなかった。必要がない、とかそういう話ではない。

 人間が、自分の意思で、その儀式を完遂することが必要だからだ。ジョージも、こくこくと小さく頷いた。分かっていて、自分は口を出していないのだと。伝えるために。

 だからアーロンはゲームなんかを真似ているんだな、というのを難しい言葉で言ったんだろうと思っている。

 アーロンの運転する車は観光客の多くいる場所を走り抜け、住宅街も抜け、風光明媚ではあるが、人気ひとけのないだろう場所に停車した。

 とはいえ駐車スペース変わりか、地面には乱雑に線が引かれていた。紐の端を太い釘で地中に埋めてあるようだ。これなら、線が消えることはないだろう。それから、近くに他の人間の気配もする。

 ギルドを運営して、ダンジョンを管理していることを示すのだろう。揃いの腕章をつけている一人が、アーロンに手を振った。


「よう、アーロン! 今2グループ入ってる、ちょっと待ってくれ!」

「ああ、いや」

『こちらは気にせず、いつも通り振る舞ってくれ。彼等に私たちは見えていないんだから』


 代表して猿田彦が、ポン、とアーロンの肩を叩いた。神々はドアを開けずに車から降りて勝手に散策しだす。

 ダンジョンの中に何人も一斉に入ってしまっては、フレンドリーファイアが誘発されかねない。ゲームではないのだから。だから彼らはダンジョンの中に入る人数に制限をかけているし、来訪者にそれを伝えるようにしていた。

 アーロンは、車から降りて三々五々動き出す彼らを目で追わないようにするのに必死だった。猿田彦に言われるまでもない。

 なぜなら彼らは、他の人間の目には見えていないのだから。また頭がおかしいという扱いをされるのは、たまったもんじゃない。


 角代神と活代神は地面に手をつけた。ダンジョンの入り口まで行って、その近辺をぐるりと見て回って、少し離れた場所から観測することにしたのだ。

 ダンジョンの入り口は下草の生えた場所にいきなりぽっかりと口を開けていた。茶色いはずの土の所に、青い恐らくは岩製の階段が覗いているのだから、不審なことこの上ない。


『地中じゃないですね』


 二柱の大地に連なる神々が、己の神気を大地に浸透させた。ここは己の神社ではないし異国だしさっき飲んだのはお神酒じゃなくてコーラだけれど、それでも名のある大神なので特に問題もない。

 活代神の白いスカートに、赤茶けた土や、潰れた草の汁が付くのではないかとアーロンはハラハラしていたが、実体のない神がはくスカートである。当然こちらも実体があるわけではないので、汚れるわけがない。何なら、埃の一つすら立たない。

 けれどアーロンにとって彼ら彼女らはまるでそこに顕現しているように見えるため、そんな心配をしていた。


『薄皮一枚時空がずれてるね。高天原と中つ国がちょっと違うよりは、もう少し違うかな? どうだろうか』


 ここではないどこかから、ここに繋げてあるように感じられる。それが、活代神と角代神の出した結論であった。外から中を覗くことは難しい。

 やって出来ない事は無いだろうが、これを作った相手に気取られかねない。それでいい場合もあるが、それでは困る場合もあるのだ。

 だから二人はそれ以上無理な調査をすることはせず、その結論を持ち帰ることとした。

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