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第3話 Aschenputtel -drei-

「シンデレラ! なんなんだあいつは! あんな銃を振り回す赤ずきんなんて聞いたことないぞ!」


 王子の姿をした青年が、シンデレラと呼ばれた黄金のドレスの着た女性の方を向き言い放った。


「そうですね……おそらくは読み手マスターの能力でしょう」


 静かに目を閉じながら黄金の美女は答えた。


読み手マスター役割ロール……。赤ずきんなら終盤に出てくる猟師か? 猟師なら猟銃で戦えよ!」

「ええ、さすがに拡大解釈ルール違反が過ぎますわね。どんな銃でも出せるなどと、時代背景も考えられないのかしら……」


 王子はイライラしたかのように、足元にある小石を蹴り飛ばしていた。どうもその容姿と性格は一致していないように見える。


「そうだ、拡大解釈ルール違反ならばシンデレラの話に魔法使いが出てきたはずだ! 解釈的には魔法は何でもありだろう! 次はそれで攻めよう!」


 期待の眼差しでこちらを見る王子に、シンデレラは静かに首を横に振った。


「いいえ、それはできないのです」

「何故だ! 赤ずきんにはできて何故お前にできない!」

「以前にも説明しましたが、魔法使いが出てくるのはペローの灰被りサンドリヨンなのです。グリムの灰被りアシェンプテルでは魔法使いは出てきません。ガラスの靴も私にはないのです」


 そう言うとシンデレラは自らの足元にある金の靴を王子へと見せつけた。


「ならどうする! こちらの武器カードが少なすぎる! ほかに何かないのか!」

「戦いようはあります。赤ずきんが銃を使うということはその主人たる読み手マスターの能力を使っているということ……つまり……」


 そこではっと王子は気付いた……というより思い出していた。


「確かに、あの男に接敵した時、あいつは銃を取り出して撃ったりはしなかった。赤ずきんが代わりに邪魔をしてきたが……」

「ええ、つまり赤ずきんが銃を使っている時は読み手マスターは銃を使用できないのでしょう」

「ならば、赤ずきんとあの男を分断できれば勝機はあるな……身体能力的には王子様プリンス役割ロールの俺が有利のはずだ。猟師が刃物を使う可能性があると思うか?」


 シンデレラは少し悩んだような顔をした。その悩む姿はその美人な容姿も相まってかとても絵になるようなものであった。


拡大解釈ルール違反をするのであれば、狼の腹を鋏で切ったり、毛皮を剥いだりで刃物らしいものは使うかもしれません。ですが、見た所あの読み手マスターは及び腰でした。まるで戦闘には関わりたくないというような」

「そういえば、赤ずきんもあの男を逃がそうとしていたな」


 王子はシンデレラの横へと座るとその肩を抱いた。


「私が赤ずきんの注意を惹き読み手マスターから遠ざけましょう。その隙に王子マスターは相手の読み手マスターを」

「いいだろう。あの男を殺せば赤ずきんも大人しくなるのか?」


 王子の手が肩からシンデレラのその豊満な胸元へと移動する。


「ん……、ええ。姿を保てなくなり魔導書グリモワールへと戻る事でしょう」

「そうか。ならよし。勝ったも当然だな!」


 楽観的に答えた王子とその手つきにシンデレラはそっと王子から顔を背け、嫌悪感を露わにしていた。

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