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グリム・グリモワール
グリム・グリモワール
ぴすぴす
現代ファンタジー異能バトル
2025年02月23日
公開日
2.5万字
連載中
グリム童話をご存じだろうか?
グリム兄弟が各地の童話や民謡、言い伝えを編纂した物語である。
しかし、それは童話などという生易しいものではなく、
膨大な力と能力を秘めた魔導書《グリモワール》であった。

これは、赤ずきんの魔導書《グリモワール》と共に、
グリムの魔導書《グリム・グリモワール》を巡る戦いに巻き込まれたひとりの青年のお話。
品性の欠片もなく、倫理感すら怪しい暴言暴論を吐き捨てるメスガキと共に戦い続ける物語。

※この物語は過度の残虐、嗜虐描写が含まれますのでご注意ください
※この物語は過度の暴力、暴言、暴論が含まれますのでご注意ください
※この物語は過度の性的な表現が含まれますのでご注意ください。ただし十八禁描写は含まれないよう配慮しています。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
※また本作にはいかなる差別、偏見、暴力、または不適切な行為を助長する意図は一切ありません
※また本作は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

第1話 Aschenputtel -eins-

「じゃあかしいわ! てめぇは戦闘じゃ役に立たねぇんだからさっさとどっかに隠れてろ三下!」


 両手に手にした拳銃ハンドガンを撃ちながら赤いフードの金髪の少女が叫んだ。月の光に照らされた闇夜に銃弾の軌跡が流星のように降り注ぐ。次々と拳銃ハンドガンから弾が撃ち出されていく中、未だ何の行動も起こそうとせず、尻もちをついている青年の姿をちらりと横目で見る。


「聞いてんのか! てめぇの首の上にあんのは南瓜かぼちゃか? 脳みそついてんのか! ああん?」


 再度少女が叫ぶ。ようやく事態が飲み込めたのか、青年は狼狽えながらも立ち上がり逃げようと動き出そうとした刹那。青年の横には金髪の優男が細剣レイピアを持って立っていた。その容姿はまるで御伽噺どうわに出てくるような王子様プリンスのような出で立ちだ。


「逃がさないよ」


 王子がその細剣レイピアを青年に向けて突き刺そうと突進した。寸でのところで赤いフードの少女が間に割り込み、手にした拳銃ハンドガン細剣レイピアを受け流していた。すぐに、間髪入れず少女はもう片方の拳銃ハンドガンを王子に向け応射する。

 発火炎マズルフラッシュと排莢が響く中、王子はまるで弾道が見えているのか悠々と躱して二人から距離を取った。


「ちっ! もたもたしてんじゃねえぞクソ男マスター! てめぇに死なれたらあたしが困んだよ!」


 苛立ちながら少女が三度青年へと叫ぶ。しかし、青年の視界には少女は映っていなかった。その視線の先には一人の黄金のドレスを着た女。王女プリンセス


「ダメだ赤ずきん。シンデレラに追いつかれた」


 その言葉に赤ずきんと言われた少女はドレスの女……シンデレラを一瞥した後、有無を言わさず拳銃ハンドガンをシンデレラへと向け発砲した。


 銃弾がシンデレラに届くその瞬間にどこかから白い鳩が飛び出し、その銃弾を悉く弾き飛ばしていた。その白い鳩は広げた翼を器用に折りたたむとシンデレラの肩へととまった。いつの間にか彼女の横には先程の王子も立っていた。


灰被りアシェンプテル如きが! 灰被りサンドリヨンじゃねえてめぇがあたしに勝てると思ってんのかこのクソビッチ!」


 赤ずきんの挑発に意も解さぬようにいたって冷静な声が響く。


「品性がないわね赤ずきんロートケップヒェン。ああ、元々あなたは持ち合わせていなかったわね。ごめんなさいね」

「けっ。てめぇはあたし以下の奴隷生まれじゃねぇか。品性以前に学すらねぇだろうが。玉の輿に乗っただけの売女風情が!」


 そう言うと赤ずきんの手にした拳銃ハンドガンが光に包まれ形を変える。先程よりは少し大きめの短機関銃サブマシンガンがその手に形成されると、警告なしに連続射撃フルオートで発砲する。


王宮の城壁ロイヤル・ウォールズ!」


 シンデレラがそう叫ぶと、大地から白い巨大な壁が彼女の眼前を覆い、王子と共に二人の姿をその内へと隠した。赤ずきんの放った銃弾は悉くをその壁に防がれる。


「ちっ。自分の力てめえのもちものでもねぇのにお姫様クソビッチはどいつもこいつも固い処女膜じょうへき持ちで嫌になる。ていうか、てめぇそれ英語スラングじゃねぇか! どこの生まれだよてめぇは!」


 中指を立てるかの如く悪態をつきながら絶えず銃撃を浴びせている赤ずきんではあるが、白亜の城に守られたシンデレラには一発の銃弾すらも届くことはなかった。


「おい、所有者マスター。お前、あの処女膜じょうへきを破れる一物えものに心当たりあるか?」


 赤ずきんは隣に立っている青年の顔を覗き込む。一四〇センチ程しかない赤ずきんと青年の身長差では上目遣いになるしかなかった。口は悪いが赤ずきんは紛れもない美少女であり、その上目遣いは庇護欲を掻き立てる。


 その視線にも青年はお構いなしに、頭を抱えながらも応える。


「銃器でなくちゃダメなんだよな? 確か対物ライフルアンチマテリアルライフルとか言うのがあったはず……。戦車の装甲すら貫くってどこかで聞いたことがある……。だけど、僕は形ぐらいしか知らないし詳細なスペックとかは何も知らないぞ」

「いいんだよそれで。お前の記憶はあたしの記憶だ。思い描け! あとは勝手に読み取る!」


 青年は言われた通り対物ライフルアンチマテリアルライフルを脳内で想像した。朧気ながらの輪郭ぐらいしか思い付かないが、何かのゲームで出てきたような記憶も片隅にはあったし、何とか形にはなりそうだった。

 すると赤ずきんの持っていた短機関銃サブマシンガンが光り霧散し、また別の形へと姿を変えていく。それは巨大な銃。赤ずきんの身長とほぼ同じぐらいの全長を持つ対物ライフルアンチマテリアルライフルだった。


「ひゅー。いい一物えもの持ってんじゃねぇか。気に入ったぜ所有者マスター! 褒美に後でてめぇの一物えもの可愛がっしゃぶってやるよ!」


 そう言うと赤ずきんは腹這いになりながらその大型の銃を構える。


 刹那。


 爆音とともに発火炎マズルフラッシュが辺りを照らしだす。不思議な事に赤ずきんには反動が来ていないのか構えたままの姿勢から微動だにしていなかった。

 対物ライフルアンチマテリアルライフルから発射された弾丸は白亜の壁に着弾すると同時に爆発をし、その壁に巨大な穴を穿っていた。

 壁の後ろにいたシンデレラと王子もまさか破られるとは思っておらず、崩れかけた白壁の向こうで驚愕の表情を浮かべていた。


 間髪入れず二射目に入ろうとする赤ずきんより先に、シンデレラはその手から白い光を出したかと思うと、あたりは一瞬のうちに霧のような灰に包まれた。その灰は赤ずきんたちをも飲み込み周囲の視界を完全に奪っていた。


「げっほ、げほっ……、赤……ずきん! 大丈夫か!」


 視界が灰に染まる中、青年が咳き込みながらもすぐ横にいたはずの赤ずきんに声を掛ける。


「ちっ。灰被りが! 本当に灰を被りやがった! 有視界も感知も効かねぇ。離れんじゃねぇぞ所有者マスター


 辺りを静寂が支配し、やがて段々と視界が開けていく。その後には無残にもボロボロに穿かれた城壁の残骸のみが残されており、王子プリンス王女プリンセスの姿はどこにも見当たらなかった。


「逃がしたか。まあいい。今日の所は格の差だけ見せつけられればな。ちっ、身体中が灰塗れだぜ。おい、所有者マスターさっさと帰ってシャワー浴びようぜ」


 対物ライフルアンチマテリアルライフルが光り輝きその姿が霧散する。赤ずきんのその手にはもう何も残ってはいなかった。


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