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第30話 地獄の扉

「——ついてこい」


白崎先生が背を向け、歩き出す。俺はふらつきながらも、その背中を追いかけた。

体はまだ重いが、不思議と前に進める気がした。

扉の向こうに待っているものが何なのか——それを知りたいという気持ちが、今の俺を支えていた。

「……ここは?」


案内された部屋は、無機質なコンクリートの壁に囲まれた空間だった。

体育館ほどの広さがあり、中央にはリングが設置されている。

だが、それだけではない——周囲にはいくつものトレーニング器具が置かれ、奥の壁には白崎先生の手書きらしき「己を超えろ」の文字が力強く刻まれていた。


「この部屋はな、"覚悟を決めた者"だけが入ることを許された場所だ」


白崎先生はリングを指さしながら言った。


「ここで行われるのは、本当の"試練"だ。今までのトレーニングとはわけが違う」


俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「……やるしかないですね」


「フッ、いい返事だ」


白崎先生は笑い、リングの上に上がる。そして俺に向かって手招きした。


「まずは、お前の"今"を見せてもらう。——かかってこい」


「……!」


俺は息を整えながら、リングに足を踏み入れた。

白崎先生と真正面から向かい合うと、その圧倒的なオーラに飲み込まれそうになる。

だが——今は怯えている場合じゃない。


「行きます!」


叫ぶと同時に、俺は全力で踏み込んだ。

だが——


「遅い」


白崎先生の声が聞こえた瞬間、視界が大きく揺れた。


——ガッ!


「ぐっ……!」


強烈な衝撃が腹部に走る。

息が詰まり、膝から崩れ落ちそうになるが、何とかこらえた。


「その程度か? なら、この先には進めないな」


白崎先生は冷静に言い放つ。


「——まだです!」


俺は歯を食いしばり、もう一度踏み込んだ。

——その瞬間。


「いい目だ」


白崎先生がニヤリと笑い、今度は本気の拳を繰り出した——。

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