「——ついてこい」
白崎先生が背を向け、歩き出す。俺はふらつきながらも、その背中を追いかけた。
体はまだ重いが、不思議と前に進める気がした。
扉の向こうに待っているものが何なのか——それを知りたいという気持ちが、今の俺を支えていた。
◇
「……ここは?」
案内された部屋は、無機質なコンクリートの壁に囲まれた空間だった。
体育館ほどの広さがあり、中央にはリングが設置されている。
だが、それだけではない——周囲にはいくつものトレーニング器具が置かれ、奥の壁には白崎先生の手書きらしき「己を超えろ」の文字が力強く刻まれていた。
「この部屋はな、"覚悟を決めた者"だけが入ることを許された場所だ」
白崎先生はリングを指さしながら言った。
「ここで行われるのは、本当の"試練"だ。今までのトレーニングとはわけが違う」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「……やるしかないですね」
「フッ、いい返事だ」
白崎先生は笑い、リングの上に上がる。そして俺に向かって手招きした。
「まずは、お前の"今"を見せてもらう。——かかってこい」
「……!」
俺は息を整えながら、リングに足を踏み入れた。
白崎先生と真正面から向かい合うと、その圧倒的なオーラに飲み込まれそうになる。
だが——今は怯えている場合じゃない。
「行きます!」
叫ぶと同時に、俺は全力で踏み込んだ。
だが——
「遅い」
白崎先生の声が聞こえた瞬間、視界が大きく揺れた。
——ガッ!
「ぐっ……!」
強烈な衝撃が腹部に走る。
息が詰まり、膝から崩れ落ちそうになるが、何とかこらえた。
「その程度か? なら、この先には進めないな」
白崎先生は冷静に言い放つ。
「——まだです!」
俺は歯を食いしばり、もう一度踏み込んだ。
——その瞬間。
「いい目だ」
白崎先生がニヤリと笑い、今度は本気の拳を繰り出した——。