意識の奥で、声が聞こえた。
(……まだ終わってない……)
(……お前は、ここで倒れるべきじゃない……)
それは誰の声なのか分からなかった。
けれど、不思議と懐かしく、温かい響きを感じた。
——目を覚ませ。
その言葉とともに、俺の意識は引き戻された。
「……っ!」
目を開けた瞬間、俺は強烈な頭痛に襲われた。
けれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「佐倉くん!」
ひかりの声がすぐそばから聞こえた。
俺は地面に崩れ落ちていたらしく、ひかりが必死に俺を支えていた。
「……大丈夫か?」
声がかすれる。
けれど、なんとか立ち上がろうとすると——
「無理をするな」
白崎先生がすぐ目の前に立っていた。
冷静な目で俺を見下ろし、右手にはさっきの装置を握っている。
「君の能力は、すでに限界を迎えつつある」
「……限界?」
俺が聞き返すと、白崎先生はゆっくりと頷いた。
「君は"適応者"として覚醒し始めたが、その力を制御するにはまだ早すぎる。無理に能力を使おうとすれば、脳に過剰な負荷がかかり、最悪の場合——」
先生の言葉を待たずに、俺は自分の頭を押さえた。
(……確かに……最近、能力を使うたびに痛みが増していた……)
「そのまま使い続ければ、おそらく君は"暴走"する」
「暴走……?」
先生の言葉に、不吉な予感が走る。
「能力が制御不能に陥り、君自身の意思とは関係なく発動し続ける状態だ。その結果、周囲に甚大な影響を及ぼし、最悪の場合——君自身が崩壊する」
「……っ!」
俺は息をのんだ。
そんなこと、一度も考えたことがなかった。
「だからこそ、君を"確保"する必要があるんだ」
先生の言葉に、俺は拳を握りしめた。
「ふざけるな……!そんなの、俺が望んだことじゃない!」
「望んでいなくても、事実は変わらない」
白崎先生の声は淡々としていた。
まるで、すべてが決まっているかのように。
けれど——
(……俺は、本当にこのまま捕まるのか?)
いや、違う。
俺にはまだ、やるべきことがある。
——そうだ。俺は、この力を"誰かを守るため"に使うと決めたんだ。
「——ひかり、走れるか?」
「え?」
俺はひかりの手を強く握った。
「まだ終わってない。ここで捕まるわけにはいかないんだ」
ひかりは一瞬驚いたようだったが、すぐに力強く頷いた。
「……うん!」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
——"能力を使うな"?
違う。
俺は"使わない"んじゃない。"使いこなす"んだ。
そう思った瞬間、俺の頭の中で世界が"広がった"。
白崎先生の思考が——一瞬だけ、"見えた"。
(——しまった、まさか……!)
先生の驚きが伝わる。
俺はその一瞬の隙を突き、ひかりの手を引いて走り出した。
「——待て!」
白崎先生の声が響くが、もう遅い。
俺たちは非常階段を駆け下り、一気に出口へ向かう。
——俺の戦いは、まだ終わらない。
これは、俺自身の"選択"の物語だ。