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第23話 覚醒の代償

「——行くぞ、ひかり!」


俺はひかりの手を引き、暗い校舎の廊下を駆け抜ける。


頭の中では、白崎先生の声がまだこだましていた。


『"適応者"の確保を優先しろ』


つまり、俺は"適応者"とやらに該当していて、政府にマークされている。


しかも、先生は"確保"なんて物騒な言い方をしていた。


これは、ただの観察や研究目的じゃない——何か裏がある。


「佐倉くん、こっち!」


ひかりが非常階段を指さし、俺たちはそこへ飛び込んだ。


だが、その瞬間——


「……もう、逃げるのはやめてくれないか?」


静かで、けれど冷ややかな声が響いた。


振り向くと、そこには白崎先生が立っていた。


「——っ!」


俺はとっさに"読もう"とした。


相手の心の声を。


だが——


(……読めない……!?)


「無駄だよ、佐倉」


白崎先生がゆっくりと歩み寄る。


「君の能力の成長は予想以上だったが、それを見越して対策を講じるのも当然だ。君が人の思考を"選んで読める"ようになった時点で、対抗策が必要だったからね」


俺は歯を食いしばる。


「じゃあ……何か妨害してるってことか?」


「その通り」


白崎先生が懐から、黒い小型の装置を取り出して見せる。


「これは"思考波の干渉装置"だ。君のような"適応者"が勝手に能力を使えないよう、政府の研究チームが開発したものだよ」


「……そんなもんまで……」


心の声を読めない。つまり、相手の意図を察知できない。


俺は完全に、"普通の人間"に戻されたのだ。


「さあ、来てもらおうか」


白崎先生が手を伸ばす。


だが——


「させるかっ!!」


俺は咄嗟に、その手を振り払った。


そして——その瞬間だった。


——ビリッ……!


脳の奥が痺れるような感覚。


それに続いて、全身を貫く鋭い痛み——


(……またか……!!)


最近、能力を無理に使おうとすると、頭に激痛が走るようになっていた。


まるで、俺の体が"変化"に追いついていないみたいに。


「佐倉くん、大丈夫!?」


ひかりの声が遠のく。


(……クソ、こんな時に……!)


視界が揺らぐ。足元が崩れるような感覚。


白崎先生が小さく息をつき、俺の肩を支えた。


「だから言っただろう、無駄だと」


悔しい。


なのに、身体が動かない——


(俺の力は……ここで終わるのか?)


暗闇の中、意識が遠のいていく——。

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