その日から、俺は覚悟を決めて進化の可能性を受け入れることにした。ひかりの言葉が心に残り、少しずつ恐怖が薄れていった。確かに、未来のことは分からないし、進化すればどんな力を得るのかも分からない。でも、俺はもう、自分の力を恐れたくなかった。
ひかりと共に歩んでいけば、どんな困難も乗り越えられる気がした。
そして数日後、あの屋上で再び風間と会うことになった。彼は俺が決意したことを知っているかのように、無言で立っていた。目を合わせると、彼の心の中からまたあの言葉が響いてきた。
"君が決めたのなら、進化を止めることはできない。だが、それが正しいかどうかは、誰にも分からない。"
俺はその言葉を胸に、深く息を吸った。決して楽な選択ではないことは分かっていた。しかし、今の自分にはもう後戻りはできない気がしていた。
「風間、俺、進化を受け入れることにしたよ」
風間は無表情で俺を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「それでこそ、君らしい。だが、進化には覚悟が必要だ。僕が言ったように、その先にはリスクがある。消えることだってあり得るんだ」
俺は無言で彼を見返した。心の中で、もう一度ひかりの笑顔が浮かんだ。進化して消えてしまうことへの恐れは、もう少しだけ遠くなった気がする。
「覚悟はできてる」
風間が静かに目をそらし、そしてゆっくりと歩き出す。
「なら、試してみろ。君の決断が、君の力を決めるのだからな」
その言葉に背中を押され、俺は再び屋上に立ち、目を閉じた。周囲の音が徐々に遠くなり、静かな感覚に包まれる。力が体の中でうずき始めるのを感じた。まるで、俺の体の中に眠っていた何かが目を覚ましたかのようだった。
そして、突然、目の前にひかりの顔が浮かび上がった。ひかりの優しい笑顔が、俺に語りかけてくる。
『大丈夫、あなたならきっと上手くやれる』
その言葉を胸に、俺は思い切り目を開けた。すると、全身が熱く、そして力強く震え出した。目の前に広がる景色がぼやけ、世界の色が変わったかのような感覚に襲われた。心の中で様々な声が響き、目に映るすべての人々の思いが、手に取るように伝わってきた。
その時、ふと気づいた。
俺が進化したのは、力を得るためだけではなかった。心を読む力を、今度はもっと大切に使うために進化が必要だったのだと。
ひかりのように、他人を理解し、支える力を持つために。
突然、空気が変わり、周囲の景色がクリアに見え始めた。目の前の風景が鮮明になり、俺は自分の力を実感した。それと同時に、目の前にいる風間の表情が微妙に変わったことに気づいた。
「やっぱり、君は面白いな」
風間はそう言うと、ゆっくりと後ろに歩き始めた。俺の進化を試すように、微笑みながら立ち去る。
その背中を見送りながら、俺は心の中で誓った。
これからは、ただ力を持っているだけではなく、それをどう使うかを考えながら生きる。そして、ひかりや周りの人々と共に、力を使って人々を守り、支えていくこと。
――俺は、これからも進化し続ける。
そして、どんな試練が待っていようとも、恐れずに進んでいく。
——次は、どんな道が開かれるのだろうか?