目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第19話 進化するチョイ能力

「……俺と同じ?」


風間の言葉に、俺は驚きと警戒を隠せなかった。


「お前の能力、"目が合った瞬間にだけ"心が読めるんだろ?」


「……ああ」


「それが最近、"よりはっきり"聞こえるようになってきたんじゃないか?」


(……なんでそんなことを知ってるんだ?)


俺の戸惑いを見透かしたように、風間は静かに続けた。


「俺もかつてはそうだった。最初はごく短い時間だけ心を読めたが、いつの間にか制限がなくなっていった」


「制限が……なくなった?」


「そうだ。今では、目が合わなくても周囲の心の声が聞こえるようになった」


俺は息をのんだ。


(目を合わせなくても聞こえる……? そんなの、完全な"読心能力"じゃないか)


「……けど、それってすごく便利じゃないか? なんでそんな深刻そうな顔してるんだよ」


風間は苦笑しながら言った。


「お前、まだ知らないんだな。チョイ能力者が"進化"すると、どうなるか」


「……どうなるって?」


「"消える"んだよ」


俺は思わず喉を鳴らした。


(また"消える"って言葉……)


「……それって、ただの噂じゃないのか?」


「そう思うか? 俺の知り合いだったチョイ能力者は、進化した直後、みんな姿を消した」


「……!!!」


「"突然いなくなった"としか言いようがない。学校にも来なくなるし、家族すら行方を知らない。記録が抹消されたみたいに、完全に消えたんだ」


「……っ」


信じがたい話だった。でも、今までチョイ能力者の"進化"なんて考えたこともなかった俺には、それを否定する材料もない。


「まさか……進化すると、政府に連れていかれるとか?」


「さあな。けど、お前もこのままだと"消える側"に回る可能性が高い」


(そんな……)


「一つだけ方法がある」


風間は俺の目をじっと見つめた。


「能力の進化を"止める"んだ」


「……止める?」


「進化した能力を使わないこと。できるだけ能力を抑え、普通の生活を送る。それが、"消えずに生きる"唯一の方法だ」


「……そんなことが可能なのか?」


「俺は、ギリギリのところで抑えてるつもりだ」


(……本当か? それなら、今こうして俺に"心の声"を読ませる必要はないはずだ)


「……それで、お前は今、俺に何を伝えようとしてるんだ?」


「簡単なことだ。お前がこのまま能力を進化させるのか、それとも止めるのか——選べってことだ」


風間は淡々とした口調で言った。


「……選ぶ?」


「このまま進化すれば、より強い力を手に入れるだろう。だけど、"消える"リスクも高くなる」


「……」


「逆に、進化を止めれば、普通の生活ができる。でも、お前の力が完全に"消滅"する可能性もある」


(……どっちを選べばいいんだ?)


今まで、俺は"チョイ能力者"として自分の力を持て余していた。少しだけ心が読めるせいで人間不信になり、孤立していた。でも最近は、ひかりやクラスメイトとの関わりの中で、少しずつ自分の力を受け入れられるようになってきた。


(それなのに……今度は"進化"か)


進化して強くなることは、悪いことじゃないかもしれない。


だけど、それで"消える"なんてことになったら……。


「……どうすればいいんだろうな」


俺は、ぼんやりと青空を見上げた。


風間は俺をじっと見つめたまま、静かに言った。


「お前が決めろ。僕はもう、決めた」


「……お前は、どっちを選んだんだ?」


「それを知りたいなら……お前自身が答えを出してからだな」


そう言うと、風間は踵を返し、屋上を後にした。

俺は一人、風に吹かれながら、自分の手を見つめた。


(俺は……どっちを選べばいいんだ?)


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?