「よし、とりあえずいつも通り学校行こっか!」
ひかりが明るく言い、俺は小さく頷いた。
(今まで通り……か)
何も考えずに過ごすのは無理かもしれないが、必要以上に悩むのはやめよう。そう思いながら、俺は教室に向かった。
しかし——
教室に入った瞬間、妙な違和感があった。
(ん? なんだこの感じ……?)
ざわ……
周りのクラスメイトたちの心の声が、これまでとは違う響き方をしていた。
——佐倉、大丈夫かな……
——なんか最近、雰囲気変わったよな……
——もしかしてアイツ、能力が進化してるんじゃ……?
(!?)
俺は思わず立ち止まった。
(どういうことだ? なんでみんな俺のことをそんな風に……?)
今までなら、クラスメイトの心の声はもっとぼんやりしていた。
それが今は、まるで俺に直接語りかけるみたいにはっきり聞こえる。
「……佐倉?」
ひかりが不安そうに俺を見た。
「お前、顔色悪いよ?」
「いや、ちょっと……」
俺は深呼吸した。
(落ち着け、俺。考えすぎかもしれない……)
「おはよー!」
そんな俺の思考を遮るように、クラスのムードメーカー・石田が俺の肩を叩いた。
「佐倉、最近ちょっとカッコよくなったんじゃね?」
「……は?」
「なんか、オーラが変わったっていうかさ、前より自信ある感じ?」
「そ、そうか?」
「うん、なんか"デキる男"の雰囲気出てきたよなー」
("デキる男"ってなんだよ……)
俺が困惑していると、別のクラスメイトも話に加わった。
「確かに、最近ちょっと雰囲気違うよな」
「前より落ち着いてるっていうか……」
「なんか目つきも鋭くなったよね」
「もしかして、能力が強くなったとか?」
最後の言葉に、俺はビクリと反応した。
「え、いや……そんなことは……」
「でも、ほら、超能力って進化することあるらしいじゃん? チョイ能力者でも、たまにすごい力を持つやつが出るとか……」
(こいつら、どこでそんな話を……)
俺は平静を装おうとしたが、内心焦っていた。
「な、なんだよ。俺が進化したらなんか問題あるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ……」
「……でも、進化しすぎると"消える"って噂もあるよな?」
「!!!」
誰かが呟いたその言葉に、教室の空気が一瞬ピリッと張り詰めた。
(なんでそんな話が広まってるんだ……?)
「まぁまぁ、佐倉はそんな危ないやつじゃないだろ!」
石田が場を和ませるように笑ったが、俺は気が気じゃなかった。
(このままじゃ、俺……マジで"目をつけられる"んじゃ……)
「……ちょっと、外の空気吸ってくる」
俺はそう言い残し、教室を飛び出した。
屋上のフェンスにもたれかかりながら、俺は息を整えた。
(やっぱり、能力の進化が進んでる……)
心の声が前よりも鮮明に聞こえる。
それに、"俺の変化"が周りに伝わり始めている。
(このままだと、本当に危ないかもしれない……)
「——やっぱり、お前も気づいてたか」
突然、背後から声がした。
「……!!」
振り返ると、そこには黒髪の長身男子——風間が立っていた。
風間は、クラスでも一匹狼タイプの男だ。無口で、他人とあまり関わろうとしない。
「風間……?」
「お前、最近"聞こえる範囲"が広がっただろ?」
「!!!」
俺は息をのんだ。
「……どうしてそれを?」
「俺も、お前と同じ"進化するチョイ能力者"だからな」