「特別って……どういうことですか?」
俺は先生の言葉の意味を理解できずにいた。
「普通の超能力者は、生まれたときからその力を持っている。しかし、"進化したチョイ能力者"は後天的に能力を拡張していく……つまり、自分の意思次第で能力の限界を超えていく可能性があるんだ」
「限界を超える……?」
「そう。例えば、今の君の能力は"目が合った相手の心を読める"というものだった。でも、今は"選んで"読むことができるようになったんだろう?」
「……はい」
「なら、次にできることは何だと思う?」
「……次?」
俺は考え込んだ。
選んで心を読むことができるようになった。
じゃあ次は……
「……もっと長い時間、心を読めるようになる?」
「正解だ」
先生は静かに微笑んだ。
「チョイ能力は"制限"があるからチョイ能力と呼ばれている。でも、その制限が一つずつ外れていくとどうなると思う?」
俺は息をのんだ。
それってつまり……
「俺は"完全な読心能力者"になる……?」
「いや、それだけじゃない」
先生の声が、急に低くなった。
「君が進化を続ければ、"心を読む"だけじゃなく、"心を操る"こともできるようになるかもしれない」
「!!!」
心を操る……?
「そんなこと、本当に……?」
「可能性はある。実際、過去に進化したチョイ能力者の中には、"洗脳"のようなことができるようになった者もいる」
俺はゾッとした。
心を操る……?
それって、もう"チョイ"どころじゃない。
「……俺がそんな力を手に入れたら、どうなるんですか?」
「さあね」
先生は少し寂しそうな顔をした。
「ただ……"進化しすぎたチョイ能力者"は、例外なく世界から消えている」
「……消えてる?」
俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「どういうことですか?」
「つまり——"管理"される、ということだよ」
先生の言葉に、ひかりが小さく悲鳴を上げた。
「……そんな……」
「進化しすぎたチョイ能力者は、政府や秘密機関に目をつけられる。そして、ある日突然"行方不明"になる」
「……殺されるってことですか?」
「さあ、それは分からない。でも、一つだけ確かなのは……"彼らは二度と戻ってこない"ということだ」
俺は背筋が凍るのを感じた。
(もし俺がこのまま進化し続けたら……)
(いつか、俺も"消える"のか?)
「……だったら、進化しなければいいんじゃ?」
ひかりが不安そうに俺を見た。
「能力を抑えれば、目をつけられずに済むかもしれないよ?」
「……そうかもしれない」
でも——
「……でも、それって俺が"俺であること"を否定するってことだろ?」
俺は自分の手を見つめた。
「能力が進化し始めているのに、それを無理やり止めるなんて……そんなこと、できるのか?」
先生はじっと俺を見つめていた。
「君が選べる道は二つだ」
「二つ?」
「一つは、能力を制御し、進化を止めて"普通のチョイ能力者"として生きる道」
「……」
「もう一つは、進化を受け入れ、"完全な能力者"になる道だ」
「でも、それって……」
「そう。"完全な能力者"になれば、君は"管理"される可能性が高くなる」
先生は静かに言った。
「君は、どちらの道を選ぶ?」
俺は答えられなかった。