「……なんか、怖くなってきた」
自分で言っておいてアレだけど、マジでゾッとする。
目が合っただけで、"選んで"人の心を読めるなんて、もはや"チョイ能力"とは言えない。
「ねえ佐倉くん、これってさ……もし先生にバレたらやばくない?」
ひかりが真剣な顔で言った。
「……確かに」
白崎先生は"チョイ能力者の進化"について何か知っている。俺がこのまま能力を伸ばしたら、確実に目をつけられる。
「でも、抑えることもできないんだよな……」
能力が"目覚める"って、こういうことなのかもしれない。
自分じゃ制御できないまま、勝手に力が育っていく。
「どうしよう……」
「うーん、まずは白崎先生について、もうちょっと詳しく調べたほうがいいよね」
「だな。……って、授業始まるぞ!」
俺たちは慌てて席についた。
《昼休み》
昼休みになると、ひかりが俺の腕を引っ張った。
「佐倉くん、ちょっと屋上行こ!」
「え、なんで?」
「人が少ないところで話したほうがいいでしょ!」
ひかりの勢いに押されて、俺は仕方なく屋上へ向かった。幸い、誰もいなかった。
「で? なんかいい案でも思いついたのか?」
「うん。さっきの授業中に考えてたんだけどさ、佐倉くんの能力が進化した理由って、何かきっかけがあったんじゃない?」
「きっかけ?」
「例えば、最近になって誰か特別な人と接触したとか、変な事件に巻き込まれたとか……」
「……変な事件って、俺、ほぼ毎回巻き込まれてるんだが?」
「そ、それはそうだけど! なんかいつもと違う感じのことなかった?」
うーん……いつもと違うこと。
最近で言えば……
「白崎先生が俺に"進化の兆し"があるって言ってきたことか?」
「それだよ!」
ひかりが勢いよく指をさしてくる。
「先生、絶対何か知ってるよ! しかも、佐倉くんの能力の進化が関係してるんじゃない?」
「まぁ、そうだとは思うけど……どうやって調べるんだ?」
「うーん……」
ひかりが腕を組んで考え込む。
「やっぱり……尾行とか?」
「いや、バレるだろ」
「でも、直接聞いたら絶対はぐらかされるし……」
「それもそうだけど……」
俺たちがどうするか考えていると、屋上のドアがギィッと開いた。
「おい、なにしてんだよ」
現れたのは風間だった。
「げっ、風間……」
「なんだその反応」
風間は軽くため息をつきながら、俺たちの隣に来る。
「さっきからこそこそ話してたろ。なんか面白いことでも企んでんのか?」
「いや、別に……」
適当に誤魔化そうとしたが、ひかりがすかさず口を開いた。
「佐倉くんの能力が進化したんだよ!」
「お、おい!」
「は?」
風間は眉をひそめた。
「進化って、どういうことだよ?」
「目が合ったら心が読めるだけだったのに、"選んで"読めるようになったんだって!」
「……お前、それもう普通にヤバいやつじゃね?」
「俺もそう思う……」
風間は腕を組んで考え込んだ。
「で、それが白崎先生と関係あるって?」
「うん。でも証拠はないし、どう調べるか迷ってて……」
「だったら、シンプルに探れよ」
風間が言う。
「探るって、どうやって?」
「白崎先生の授業中、"試しに"心を読んでみろよ」
「えっ……?」
俺は言葉を詰まらせる。
「いやいやいや、無理だろ!」
「なんで?」
「だって先生だぞ!? もしバレたら——」
「そもそも、先生の心を読めるかどうかすら分かってねえんだろ? だったら、試すしかねえじゃん」
「それは……そうだけど……」
「授業中なら、先生はお前に集中してない。逆に今がチャンスだろ」
「……確かに」
ひかりも頷いた。
「うーん……」
俺は頭を抱える。
白崎先生の心を読む——
それは、俺にとって未知の領域だ。
でも、このまま何もしなかったら、先生が何を知っているのか永遠に分からない。
「……分かった。次の授業、試してみる」
「よし、それでこそ主人公!」
ひかりが満面の笑みで親指を立てた。
風間は無言で頷く。
……やるしかない。
俺はゆっくりと息を吸った。
次の授業、白崎先生の心を"読んで"みる——!