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番外編⑩ 佐倉と風間のある日の会話

放課後の教室。いつも通り静かに帰る準備をしていた佐倉迅は、ふと隣の席の風間に目を向けた。

「……なあ、風間。」

「ん?」

風間は無表情のまま、カバンに教科書をしまっている。

「お前さ……うちの担任と似てるよな。」

「は?」

唐突な一言に、風間は手を止めた。

「いや、なんとなく思っただけだ。」

迅はそう言いながら、少し考えるように視線を落とした。

「先生、見た目は普通の教師なんだけどさ……家ではヤバい趣味持ってるんだよ。」

「……ヤバい趣味?」

風間の眉がピクリと動く。

「言っとくけど犯罪とかじゃねえぞ。ただ……」

迅はそこで言葉を切り、少し考え込んだ後、静かに続けた。

「……アイドルオタクで、しかも俺の妹のガチ推し。」

「……」

「この前、握手会でバレて、リナにドン引きされてた。」

「……」

「で、その後、俺もそいつがリナのオタクだって知って、もう無理って思った。」

風間は目を閉じて、少し沈黙する。

「なるほどな。」

「まあ、でも先生、普段はそれを隠してるんだよ。学校ではクールぶってる。でも、家ではオタク全開で、絶対に他人に見せられない顔を持ってるんだ。」

迅は軽く肩をすくめながら、言葉を続ける。

「それで思ったんだけどさ……お前もそうだろ?」

「……」

風間の目が細くなる。

「……俺が、何だって?」

「お前も、学校では無口なイケメン気取ってるけど、家に帰ったら女児アニメに全力で浸かってるんだろ。」

「……」

「しかも、ただ観るだけじゃなくて、推しに夢中になりすぎて、挙げ句の果てに知り合い(俺)をコスプレさせるようなレベルのオタク。」

「……」

風間の表情が一瞬、固まる。

「……」

「お前のその無口キャラ、先生と似てるんだよな。表では静かでクール、でも裏では推しに全力っていうギャップが。」

「……なるほど。」

風間は静かに頷いた。そして、腕を組み、じっと迅を見つめる。

「で?」

「ん?」

「その話を、俺にしてどうしたいんだ?」

迅は少し考えたあと、ふっと笑った。

「いや……ただ、お前が先生とそっくりすぎて、お前の未来が見えた気がしただけだ。」

「俺の未来?」

「そう。」

迅は机に肘をついて、ぼんやりと天井を見上げた。

「お前、多分教師になったら、先生と同じことするぞ。」

「……」

「普段はクールぶって生徒を指導してるけど、家ではブリギュアの新作フィギュアに全力で課金してるタイプ。」

「……」

「で、ある日、生徒の前でバレて、生徒にドン引きされる未来が見えた。」

「……」

風間はしばらく無表情で迅を見つめていたが、ふっと鼻で笑った。

「……悪くないな。」

「は?」

「教師として生きるのも、推しのために生きるのも、どちらも価値がある。」

「……いや、そこ納得するんかよ。」

迅は呆れながらも、心の中で確信した。

(こいつ、マジで先生と同じタイプの人間だわ。)


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