放課後の教室。いつも通り静かに帰る準備をしていた佐倉迅は、ふと隣の席の風間に目を向けた。
「……なあ、風間。」
「ん?」
風間は無表情のまま、カバンに教科書をしまっている。
「お前さ……うちの担任と似てるよな。」
「は?」
唐突な一言に、風間は手を止めた。
「いや、なんとなく思っただけだ。」
迅はそう言いながら、少し考えるように視線を落とした。
「先生、見た目は普通の教師なんだけどさ……家ではヤバい趣味持ってるんだよ。」
「……ヤバい趣味?」
風間の眉がピクリと動く。
「言っとくけど犯罪とかじゃねえぞ。ただ……」
迅はそこで言葉を切り、少し考え込んだ後、静かに続けた。
「……アイドルオタクで、しかも俺の妹のガチ推し。」
「……」
「この前、握手会でバレて、リナにドン引きされてた。」
「……」
「で、その後、俺もそいつがリナのオタクだって知って、もう無理って思った。」
風間は目を閉じて、少し沈黙する。
「なるほどな。」
「まあ、でも先生、普段はそれを隠してるんだよ。学校ではクールぶってる。でも、家ではオタク全開で、絶対に他人に見せられない顔を持ってるんだ。」
迅は軽く肩をすくめながら、言葉を続ける。
「それで思ったんだけどさ……お前もそうだろ?」
「……」
風間の目が細くなる。
「……俺が、何だって?」
「お前も、学校では無口なイケメン気取ってるけど、家に帰ったら女児アニメに全力で浸かってるんだろ。」
「……」
「しかも、ただ観るだけじゃなくて、推しに夢中になりすぎて、挙げ句の果てに知り合い(俺)をコスプレさせるようなレベルのオタク。」
「……」
風間の表情が一瞬、固まる。
「……」
「お前のその無口キャラ、先生と似てるんだよな。表では静かでクール、でも裏では推しに全力っていうギャップが。」
「……なるほど。」
風間は静かに頷いた。そして、腕を組み、じっと迅を見つめる。
「で?」
「ん?」
「その話を、俺にしてどうしたいんだ?」
迅は少し考えたあと、ふっと笑った。
「いや……ただ、お前が先生とそっくりすぎて、お前の未来が見えた気がしただけだ。」
「俺の未来?」
「そう。」
迅は机に肘をついて、ぼんやりと天井を見上げた。
「お前、多分教師になったら、先生と同じことするぞ。」
「……」
「普段はクールぶって生徒を指導してるけど、家ではブリギュアの新作フィギュアに全力で課金してるタイプ。」
「……」
「で、ある日、生徒の前でバレて、生徒にドン引きされる未来が見えた。」
「……」
風間はしばらく無表情で迅を見つめていたが、ふっと鼻で笑った。
「……悪くないな。」
「は?」
「教師として生きるのも、推しのために生きるのも、どちらも価値がある。」
「……いや、そこ納得するんかよ。」
迅は呆れながらも、心の中で確信した。
(こいつ、マジで先生と同じタイプの人間だわ。)