風間は自分の部屋で、今日も「ブリギュア」のアニメを観ていた。特にお気に入りのキャラクター、ギュアレモンを見ていると、どうしても彼女の可愛さを再現したくなった。それだけでは満足できず、コスプレしている姿を誰かに見せてもらいたいという欲求が湧いてきた。
「だれか、ギュアレモンのコスプレしてくれ…。」
風間はいつも通り、自分の部屋の中で考え込んでいた。しかし、いざ思い返してみると、友達と言える相手はほとんどいない。彼にとっては、アニメの世界が唯一の居場所だった。
そんな時、ふと思い立った。
「佐倉がいる…!」
佐倉迅は、風間と同じクラスの、無愛想で少し浮いた存在の男の子だ。普段、周りと積極的に関わるタイプではないが、風間にとっては唯一の知り合いだ。正直、彼がギュアレモンのコスプレをしてくれるとは思ってもみなかったが、その日、風間は半ば冗談で佐倉を誘ってみた。
放課後、教室の隅で風間が佐倉に声をかけた。
「佐倉、ちょっとお願いがあるんだけど。」
「ん? 何だよ、急に。」
佐倉が不機嫌そうに振り向くと、風間は真剣な顔で言った。
「ギュアレモンのコスプレをしてほしい。礼として1万やる。」
「は? なんで俺が…」
「お前意外と童顔だろ?」
佐倉は困惑し、少し顔を赤くして言い返した。
「お前、ふざけんなよ! 俺、男だぞ!」
風間はその様子を見てニヤリと笑いながら、佐倉に頼んだ。
「一回だけでいいから。俺だってお前に頼みたくない。」
佐倉は心の中で反発しつつも、なぜか断れない気持ちになり、ついには渋々承諾した。
その日の夜、風間の部屋での変身が始まった。佐倉は嫌々ながらも女装用の服を着ることになったが、風間はその姿を見た瞬間に目を輝かせた。
「うわっ、すごい! 本当にギュアレモンそっくりだ…!」
佐倉は鏡を見ながら、恥ずかしそうに眉をひそめた。普段の無愛想な自分とはまるで違う姿だ。可愛いドレスを着て、髪を整えた自分の姿に、心の中で嫌悪感が湧き上がってきたが、風間がとても嬉しそうにしているので、どうしてもその場を壊したくなかった。
「…あ、あんまり見ないでくれよな。」
「でも、めっちゃ可愛い…。ギュアレモンそのもの…!」
風間は興奮しながら近づいてきて、佐倉の頬に手を伸ばした。佐倉は思わず後退り、警戒した。
「お前、何する気だよ…?」
風間は顔を赤らめながら、真面目な顔をして言った。
「だから、結婚してくれ。」
「は?」
佐倉の目が見開かれ、驚きと戸惑いが入り混じった表情を浮かべた。
「なんで、そんなこと言うんだよ…」
風間は深呼吸をして、ぎこちなく微笑んだ。
「だって、お前、可愛いし、すごくギュアレモンみたいだから。僕と一緒にいたら、もっと幸せになれると思う。」
佐倉はさらに困惑しながらも、風間の真剣な目を見て少し心が揺れた。しかし、彼の言葉が次第に冗談のように感じられてきた。
「そんなわけないだろ! 冗談言うな!」
すると、風間は突然、笑顔を崩し、少し照れたように口を開いた。
「まぁ、そうだよな。でも、せめて、キスくらいしてくれ。」
佐倉はその言葉に一瞬驚き、顔を真っ赤にした。
「お前、どこまでふざけてんだよ!」
風間はにやりと笑いながら、佐倉に少し近づいた。
「本気だから。」
佐倉はもう、これ以上の話ができる状態ではなかった。無理やり笑顔を作り、風間を突き放すと、急いで部屋を出て行った。
「…もう二度とあんなこと言うなよ。」
風間はその後、ひとりで笑いながら、ギュアレモンのフィギュアにキスをした。
「まぁ、あれも可愛かったけど、やっぱり佐倉の方が…」
風間は深呼吸をして、再び自分の好きなアニメの世界に浸った。