体育祭が終わった夜、俺は自分の部屋でぼんやりしていた。
机の上には開いたままの本。だけど、文字はまったく頭に入ってこない。何かを考えようとしても、ぼんやりしたままで、それが何なのか自分でもよくわからなかった。
スマホを手に取る。通知は特にない。
まあ、別に珍しくもない。誰かと頻繁にやり取りするわけでもないし、クラスのグループチャットに入ってるわけでもない。俺が知らないところで何かが決まってるのも、今に始まったことじゃない。
机の上のペットボトルの水をひと口飲んで、ため息をついた。
今日は、体育祭だった。
……それなりに、頑張ったつもりだった。リレーのバトンもつないだし、綱引きにも参加した。あの日だけは、俺もクラスの一員になれたような気がしていた。
でも、終わってみればいつも通りだ。
俺がいようがいまいが、クラスの連中には関係ないんだろう。そういうのは、もうわかってるつもりだった。
だけど、なんとなく、喉の奥が妙に詰まるような感じがするのは――どうしてなんだろうな。
俺はスマホを伏せて、ベッドに寝転がった。
――もし、俺がみんなと一緒にいたら。
橘は、どんな顔をしただろう。白石は、何か言っただろうか。
そんなことを考える自分が、なんだか馬鹿みたいに思えて、俺はそっと目を閉じた。
外では、秋の夜風が静かに吹いていた。