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番外編⑤体育祭の夜、俺は一人で

体育祭が終わった夜、俺は自分の部屋でぼんやりしていた。


机の上には開いたままの本。だけど、文字はまったく頭に入ってこない。何かを考えようとしても、ぼんやりしたままで、それが何なのか自分でもよくわからなかった。


スマホを手に取る。通知は特にない。


まあ、別に珍しくもない。誰かと頻繁にやり取りするわけでもないし、クラスのグループチャットに入ってるわけでもない。俺が知らないところで何かが決まってるのも、今に始まったことじゃない。


机の上のペットボトルの水をひと口飲んで、ため息をついた。


今日は、体育祭だった。


……それなりに、頑張ったつもりだった。リレーのバトンもつないだし、綱引きにも参加した。あの日だけは、俺もクラスの一員になれたような気がしていた。

でも、終わってみればいつも通りだ。


俺がいようがいまいが、クラスの連中には関係ないんだろう。そういうのは、もうわかってるつもりだった。


だけど、なんとなく、喉の奥が妙に詰まるような感じがするのは――どうしてなんだろうな。


俺はスマホを伏せて、ベッドに寝転がった。


――もし、俺がみんなと一緒にいたら。


橘は、どんな顔をしただろう。白石は、何か言っただろうか。


そんなことを考える自分が、なんだか馬鹿みたいに思えて、俺はそっと目を閉じた。


外では、秋の夜風が静かに吹いていた。

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