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番外編④ 体育祭打ち上げと、ひとつの違和感

「かんぱーい!!!」


クラスのムードメーカー石田の元気な掛け声とともに、ジュースのグラスが勢いよくぶつかり合った。体育祭の打ち上げは、クラスのいつものメンバーで開かれていた。居酒屋のような雰囲気のファミレスの一角を陣取り、みんなでワイワイと騒ぐ。


「いやー、体育祭、マジで燃えたな!」


「綱引きの時、石田が倒れ込んだの見た? あれめっちゃ面白かった!」


「おいおい、あれは演出だぞ! おかげで油断してた相手チームのバランス崩れたんだからな!」


石田が得意げに言うと、みんなが笑いながらツッコむ。彼はクラスのムードメーカーで、こういう場では特に盛り上げ役として輝く。美咲も珍しくよく笑っていた。


「白石も、最後のリレーかっこよかったな!」


「えっ、そんなことないよ。ただ、みんなが頑張ってくれたおかげで……」


「謙遜しすぎ! めっちゃ速かったよ!」


みんなが盛り上がる中、私はふと気づいたことがあった。


佐倉がいない。

いや、最初から知っていた。佐倉はこの打ち上げに誘われていなかった。でも、なんとなく、違和感があった。


体育祭の日、佐倉もちゃんとクラスのために走ってた。リレーでバトンをつなぐとき、普段はクールな顔してるくせに、少し息を切らしながら真剣な目をしていたのを私は見た。なのに、どうしてこの場にはいないんだろう?


「……なんか静かになったけど、橘どうした?」


石田がポテトをつまみながら私を見た。


「え? あ、ううん、なんでもない。」


気にしすぎかな。別に、佐倉はいつも一人でいるし、誘われなくても気にしてないのかもしれない。でも、なんだろう。このモヤモヤした気持ち。


「そーいや、佐倉って今何してんのかな?」


石田がぽろっと言った。その場が一瞬、微妙な空気になる。


「……家にいるんじゃない?」


「ま、あいつはこういうの来なさそうだよな。」


みんな、なんとなく話題を流した。でも、美咲が小さく口を開いた。


「……本当は、呼ぶべきだったんじゃないかな。」


「え?」


「佐倉くん、体育祭の時、すごく頑張ってたよ。リレーの時、転びそうになったのに必死でバトンつないで……。それに、いつもは関わらないのに、チーム競技の作戦会議にも参加してくれてた。」


「……まあ、確かに。」


石田が珍しく真面目な顔をする。


「でも、あいつってこういうの嫌いそうじゃね?」


「うーん……そうかもしれないけど。でも、誘われなかったって知ったら、どう思うかな。」


美咲の言葉に、私はドキッとした。


佐倉は、何も思わないだろうか?


「ま、今さら言っても仕方ないよな!」


石田がそう言って、場を元の雰囲気に戻そうとする。


みんなも「あはは、そうだね」と笑って、また賑やかに話し始めた。


でも、私はまだモヤモヤしていた。


佐倉、今頃何してるんだろう。


……明日、学校で話しかけてみようかな。


そう思いながら、私はジュースを口に運んだ。

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