「かんぱーい!!!」
クラスのムードメーカー石田の元気な掛け声とともに、ジュースのグラスが勢いよくぶつかり合った。体育祭の打ち上げは、クラスのいつものメンバーで開かれていた。居酒屋のような雰囲気のファミレスの一角を陣取り、みんなでワイワイと騒ぐ。
「いやー、体育祭、マジで燃えたな!」
「綱引きの時、石田が倒れ込んだの見た? あれめっちゃ面白かった!」
「おいおい、あれは演出だぞ! おかげで油断してた相手チームのバランス崩れたんだからな!」
石田が得意げに言うと、みんなが笑いながらツッコむ。彼はクラスのムードメーカーで、こういう場では特に盛り上げ役として輝く。美咲も珍しくよく笑っていた。
「白石も、最後のリレーかっこよかったな!」
「えっ、そんなことないよ。ただ、みんなが頑張ってくれたおかげで……」
「謙遜しすぎ! めっちゃ速かったよ!」
みんなが盛り上がる中、私はふと気づいたことがあった。
佐倉がいない。
いや、最初から知っていた。佐倉はこの打ち上げに誘われていなかった。でも、なんとなく、違和感があった。
体育祭の日、佐倉もちゃんとクラスのために走ってた。リレーでバトンをつなぐとき、普段はクールな顔してるくせに、少し息を切らしながら真剣な目をしていたのを私は見た。なのに、どうしてこの場にはいないんだろう?
「……なんか静かになったけど、橘どうした?」
石田がポテトをつまみながら私を見た。
「え? あ、ううん、なんでもない。」
気にしすぎかな。別に、佐倉はいつも一人でいるし、誘われなくても気にしてないのかもしれない。でも、なんだろう。このモヤモヤした気持ち。
「そーいや、佐倉って今何してんのかな?」
石田がぽろっと言った。その場が一瞬、微妙な空気になる。
「……家にいるんじゃない?」
「ま、あいつはこういうの来なさそうだよな。」
みんな、なんとなく話題を流した。でも、美咲が小さく口を開いた。
「……本当は、呼ぶべきだったんじゃないかな。」
「え?」
「佐倉くん、体育祭の時、すごく頑張ってたよ。リレーの時、転びそうになったのに必死でバトンつないで……。それに、いつもは関わらないのに、チーム競技の作戦会議にも参加してくれてた。」
「……まあ、確かに。」
石田が珍しく真面目な顔をする。
「でも、あいつってこういうの嫌いそうじゃね?」
「うーん……そうかもしれないけど。でも、誘われなかったって知ったら、どう思うかな。」
美咲の言葉に、私はドキッとした。
佐倉は、何も思わないだろうか?
「ま、今さら言っても仕方ないよな!」
石田がそう言って、場を元の雰囲気に戻そうとする。
みんなも「あはは、そうだね」と笑って、また賑やかに話し始めた。
でも、私はまだモヤモヤしていた。
佐倉、今頃何してるんだろう。
……明日、学校で話しかけてみようかな。
そう思いながら、私はジュースを口に運んだ。