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番外編③白崎先生の秘密の休日

白崎先生は、学校では冷静で厳格な教師として知られていた。生徒たちは彼を「無表情で真面目な先生」と認識し、彼のプライベートについては誰もが想像しなかった。しかし、その裏には誰にも言えない秘密があった。実は、白崎先生は熱狂的なアイドルオタクだったのだ。


ライブビューイングの会場。静かに座席に着いた白崎先生は、スクリーンを食い入るように見つめていた。推しのアイドルグループ「ハートにゃんにゃん」の登場を今か今かと待ちわびる。


そして、ついに会場が暗転し、アイドルたちがスポットライトに照らされながら登場した。グループの最後列の一番端っこ、推しの天王寺リナが中央に立ち、キラキラした笑顔を振りまいた。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


白崎先生は、思わず叫んでいた。周囲のファンの熱気に流され、いつもの冷静な自分は完全に消え去っていた。拳を突き上げ、リナの名前を全力で叫ぶ。


「リナーーーッ!!!今日も最高にかわいいぞーーー!!!」


普段の冷静沈着な教師の姿はどこにもなく、ただの熱狂的なオタクになっていた。オタク特有のリズム感あるクラップを打ち、ペンライトを振り回し、魂を震わせるように推しに全力で声援を送る。


ライブが進むにつれ、白崎先生は涙さえ浮かべていた。推しがここまで成長したことに感動し、全身で応援する。最後の曲が終わる頃には、完全に燃え尽きていた。


「最高だった……!!!」


息を切らしながら、白崎先生は放心状態になった。周りの観客も同じように感動しており、ライブの余韻に浸っている。


ライブを終え、心の高まりを落ち着かせるために白崎先生はカフェに立ち寄った。推しのアクリルスタンドをテーブルに置き、余韻に浸りながらコーヒーを啜る。


「はぁ……リナ、今日も最高だった……」


ところが、その至福の時間は長くは続かなかった。


「……先生?」


聞き覚えのある声が背後からした。


白崎先生は、動きが完全に止まる。ゆっくりと振り返ると、そこには 佐倉迅 が立っていた。


「え……?」


佐倉は、目を見開いて先生の目の前に置かれたアイドルグッズを見つめる。テーブルの上には、ライブのチケット半券、ペンライト、そして推しのアクリルスタンドが鎮座していた。


「……お前、何を見た?」


白崎先生の声は震えていた。佐倉は、ゆっくりと先生の表情を観察する。普段の冷静な表情とは違い、何かを必死に隠そうとしている顔。


「先生……まさか、アイドルオタク?」


「違う!!!」


反射的に叫んでしまったが、説得力が皆無だった。佐倉は、少しニヤリとしながら席に座る。


「いや、完全にそうでしょ。だって、先生、さっき『リナ、今日も最高だった』って言ってましたよね?」


「……聞いていたのか。」


「はい、バッチリ。」


白崎先生は、頭を抱えた。


「……これは、だな。そう、社会科見学みたいなものだ。」


「どこが?」


「教育者として、生徒たちの流行を知るのも仕事の一環だろう?」


「じゃあ、ライブで叫んでたのも仕事の一環?」


「……」


完全に詰んだ。


佐倉は、先生のそんな姿を見て笑った。


「先生、推しの話でもします?」


白崎先生は、少しだけ沈黙した後、観念したように息を吐いた。


「……聞くだけなら、いいだろう。」


こうして、冷静沈着な白崎先生の秘密は、佐倉によって暴かれてしまったのだった。

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