白崎先生は、学校では冷静で厳格な教師として知られていた。生徒たちは彼を「無表情で真面目な先生」と認識し、彼のプライベートについては誰もが想像しなかった。しかし、その裏には誰にも言えない秘密があった。実は、白崎先生は熱狂的なアイドルオタクだったのだ。
ライブビューイングの会場。静かに座席に着いた白崎先生は、スクリーンを食い入るように見つめていた。推しのアイドルグループ「ハートにゃんにゃん」の登場を今か今かと待ちわびる。
そして、ついに会場が暗転し、アイドルたちがスポットライトに照らされながら登場した。グループの最後列の一番端っこ、推しの天王寺リナが中央に立ち、キラキラした笑顔を振りまいた。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
白崎先生は、思わず叫んでいた。周囲のファンの熱気に流され、いつもの冷静な自分は完全に消え去っていた。拳を突き上げ、リナの名前を全力で叫ぶ。
「リナーーーッ!!!今日も最高にかわいいぞーーー!!!」
普段の冷静沈着な教師の姿はどこにもなく、ただの熱狂的なオタクになっていた。オタク特有のリズム感あるクラップを打ち、ペンライトを振り回し、魂を震わせるように推しに全力で声援を送る。
ライブが進むにつれ、白崎先生は涙さえ浮かべていた。推しがここまで成長したことに感動し、全身で応援する。最後の曲が終わる頃には、完全に燃え尽きていた。
「最高だった……!!!」
息を切らしながら、白崎先生は放心状態になった。周りの観客も同じように感動しており、ライブの余韻に浸っている。
ライブを終え、心の高まりを落ち着かせるために白崎先生はカフェに立ち寄った。推しのアクリルスタンドをテーブルに置き、余韻に浸りながらコーヒーを啜る。
「はぁ……リナ、今日も最高だった……」
ところが、その至福の時間は長くは続かなかった。
「……先生?」
聞き覚えのある声が背後からした。
白崎先生は、動きが完全に止まる。ゆっくりと振り返ると、そこには 佐倉迅 が立っていた。
「え……?」
佐倉は、目を見開いて先生の目の前に置かれたアイドルグッズを見つめる。テーブルの上には、ライブのチケット半券、ペンライト、そして推しのアクリルスタンドが鎮座していた。
「……お前、何を見た?」
白崎先生の声は震えていた。佐倉は、ゆっくりと先生の表情を観察する。普段の冷静な表情とは違い、何かを必死に隠そうとしている顔。
「先生……まさか、アイドルオタク?」
「違う!!!」
反射的に叫んでしまったが、説得力が皆無だった。佐倉は、少しニヤリとしながら席に座る。
「いや、完全にそうでしょ。だって、先生、さっき『リナ、今日も最高だった』って言ってましたよね?」
「……聞いていたのか。」
「はい、バッチリ。」
白崎先生は、頭を抱えた。
「……これは、だな。そう、社会科見学みたいなものだ。」
「どこが?」
「教育者として、生徒たちの流行を知るのも仕事の一環だろう?」
「じゃあ、ライブで叫んでたのも仕事の一環?」
「……」
完全に詰んだ。
佐倉は、先生のそんな姿を見て笑った。
「先生、推しの話でもします?」
白崎先生は、少しだけ沈黙した後、観念したように息を吐いた。
「……聞くだけなら、いいだろう。」
こうして、冷静沈着な白崎先生の秘密は、佐倉によって暴かれてしまったのだった。